新「おう、来たな」

『おはようございます』

大学の授業を終え、浩介はいよいよ初めてのアルバイトに望もうとしていた。

理「……………不合格」

『えっ?』

「言ったでしょ、飲食店なんだから身なりは清潔にしろって。それなのに髪は長いし爪も長いし。次はちゃんとしてきなさいよ」

『……………』

「返事」

『………はい』

理佐からの指摘に、いきなり出鼻を挫かれた。

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京「おはよう、西川君」

未「おはよう」

『おはようございます』

今日のシフトは、夜の6時から10時までの4時間。果たして、何事もなく終われるだろうか………

京「西川君、こっちにタイムカードあるから」

『ああ、はい』

京子について、レジの前に立つ。

「ここで、この従業員証をカードリーダーに通して。上がる時も同じことしてね。それをしないと、ずっと働いていたり、働いていないことになっちゃうから」

『うん、わかった』

ーーーーーーピッ。出勤時刻を記録しました

「うん。これでOK」

『ああ………緊張してきた………』

その時だった。

ーーーーーーすみませーん

新「浩介、行ってみろ」

『えっ⁉︎』

「これ、オーダー表」

『でも………』

理「早く行きなさいよ。お客様待たせないで」

『はい………』

いきなりのことに頭が混乱しつつ、浩介はオーダーを取りに向かう。

『お待たせいたしました。ご注文お伺い致します』

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『かしこまりました。少々お待ちください』

オーダー表にメモをすると、浩介はそのまま厨房へと戻った。だが、

理「ねぇ、あちらのお客様は何を頼まれたの?私たち、聞いてないから作れないんだけど」

『あ………すみません。えーと、』

「貸して」

理佐は浩介のところに駆け寄ると、浩介の手からオーダー表を取り上げた。

「しょうゆ1丁、みそ1丁、ギョーザ1枚!」

新「はいよ!」

『……………』

浩介はその場に立ち尽くしてしまった。足を動かそうとしても、動けない。

理「ボーッとしてないで。早く動いて」

『………はい』

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京「西川君、大丈夫?」

『…………』

浩介の姿を見かねたのか、京子が声をかけに来た。

「理佐さんはあれが普通だから。気にしなくて大丈夫だよ」

『そんなこと言われても………』

「私も未だに怒鳴られるし」

理「京子、余計なこと言わない!あんたも働きな!」

京「はい!すみません!」

理佐の怒号混じりの声が厨房内に響き渡る。

新「ギョーザ1枚上がったぞー!」

理「サンキュー!浩介、これ先ほどのお客様のところにお持ちして」

『僕がですか?』

「あのお客様は浩介が受け持ったんでしょ」

『ああ………はい』

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『お待たせいたしました。しょうゆラーメンとみそラーメンになります』

落とさないように、なんとかどんぶりをテーブルに置いた。

『失礼いたします』

「君、新入りかい?」

厨房に戻ろうとした時、サラリーマン風の男性に呼び止められた。

『そうです』

「理佐ちゃんにこっぴどく言われてたなぁ」

『はあ………』

「あの子素直じゃないから。でもきっと、君に期待してるんだと思うよ」

理「余計なこと言わないで!」

厨房から声が飛んできた。

「これからがんばれよ」

『ありがとうございます。失礼します』

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浩介はその後もなんとか時間までやり抜いた。

新「浩介、京子ちゃん、お疲れさん。上がっていいぞ」

『あ………はい。お疲れ様でした』

京「お疲れ様でした!」

京子と共に、レジのタイムカードを切って、休憩室へと戻った。

『疲れた………』

「お疲れ様。どうだった?初めてのアルバイトは」

『思ってる以上に大変だった。自分から行動しないといけないんだな、ってことがよくわかった』

「そっか」

理「浩介、いる?」

理佐が厨房から戻ってきた。忘れ物などをした記憶はない。ではなんだろうか。

『はい』

「今日はお疲れ様。………それだけ」

『あ………お疲れ様でした』

「じゃあね」

それだけ言うと、彼女はまた厨房へと戻っていった。

京「理佐さんってば素直じゃないんだから」

『ああ………ん?明里からだ』

「明里って、丹生さん?」

『うん』

「そっか。付き合ってたんだ」

『…………なんかあったのかな。ごめん、帰るね』

「うん。お疲れ様」