俺と丹生が他愛もない話をしていたところに、丸坊主の精悍な顔つきの少年と、パッチリとした目の少女がやってきた。


「浩介とは今年も同じクラスか」

『英二!』

「西川君も同じクラスなんだ!良かったぁ」

『潮も一緒か。なんかホッとしたよ、知らない人たちばかりだったから』

「そうか?お前の後ろの子、さっきからずっとにこにこしてっけど」

『ああ…。話しかけに来てくれたんだ』

「丹生明里です!これからよろしくね!」

「真島英二。よろしく」

「潮紗理菜です」

真島英二。俺とは去年も同じクラス。野球部に所属していて、欅坂高校初の甲子園を目指している野球小僧だ。

一緒に来た女の子は、潮紗理菜。英二の幼なじみで、野球部のマネージャーをやっている。同じクラスになったのは初めてだけど、英二の事を通して知っていた。

俺の好きな人……史緒里が亡くなった時、英二と潮は毎日俺のところに来てくれていた。まだ完全に立ち直れたわけではないけど、この2人がいなかったら、俺はもっと塞ぎ込んだままだったはずだ。だから、この2人には本当に感謝している。



「明里、おはよう」

「んー?あ、愛萌!同じクラスだったんだ!」

丹生の後ろに、ツインテールの女の子が立っていた。愛萌、と呼ばれたその女の子は、俺たちのことを舐め回すように見つめると、何も発さずに自分の机へと向かっていった。


「あ、愛萌!…ごめんね、あの子すごく人見知りで…」

『いや、気にしなくて大丈夫だよ』

「人見知りなところを除けば本当にいい子なの!」

『わかったから。大丈夫だって』

すると丹生は、ちょっと愛萌のところに行ってくる、と言って、窓側の席の方に移動していった。




『似てる…』



丹生が俺の座る席から離れた途端、俺はポツリとつぶやいた。



「史緒里ちゃんに、でしょう?」



潮が、そんなことを言った。






『っ⁉︎』


「そんなに驚くことじゃないでしょ?」


『いや…その…』


「英二は?どう思った?」


「…天真爛漫なところはビックリするぐらい似てる、と思った」


「私もビックリした。史緒里ちゃんが、姿を変えて目の前に立っているんじゃないか、っていうぐらいにね。でも…」


ーー紗理菜ちゃーん!

「あ、眞緒だ。ごめん、ちょっと行ってくる」

それだけ言い残して、紗理菜は眞緒のところに駆け足で向かっていった。



「んで?」

『は?』


「お前はどう思ったんだよ、丹生のこと」

『……』

「史緒里に似ていると思うか?」

『…ああ』

「そっか。まあ、そりゃそうだよな。俺も思ったし、紗理菜もきっと同じように思っただろうな」

『…何が言いたいんだよ』

「怒るなよ。史緒里を失って、お前が今も苦しんでいるのはよく知ってる。でもそれに縛られたまんまだと、前には進めないぞ。それはお前自身だってわかってるはずだよな?」



…図星だった。



俺はまだ、彼女の…史緒里の死から全くと言っていいほど立ち直れていない。




あんなに好きになったのが、生まれて初めてだったからかもしれない。別れが、急にやってきたからかもしれない。実際、彼女を失ってから、俺はどうしたらいいのかわからなくなった。


「まあ、俺もお前と同じ立場になったら、今のお前みたいになってると思うけどな」

『…』

「俺もきっと、立ち直るのに時間がかかると思う」

『英二…』

「ま、これから1年間も、よろしく頼むぜ」

『ああ……』

英二はそう言って、自分の席へと向かっていった。