翌々日水曜日 22時 真の家
アヤの詩を見つめながら真
「ふ~ん・・そうきましたか・・この世の色んな部分をえぐってるってカンジだな、確かにこういう残酷な現実ってあるよな、ちょっと怒りさえ覚えるよなぁ・・」
「うん、そうなんだよね・・・いやその前に、ちょっと詩の批評はおいといてさぁ、あんた昨日、笹木教授の講義出なかったでしょ?教授に杉山はどうしたんだって聞かれたんだからっ、アタシ昨日は、朝一から講義あったからさぁ、ココに寄らなかったんだけど、ひょっとしてあんた昨日、熱でも出て休んでたの?」
「ああ、なんだそのことか・・ちょっとさ、なんていうか・・ヤル気がさ、そういうのが沸いてこなくてさ、体もダルかったし・・熱とかは無かったんだけどな・・別に単位とかもさ、オレ様の場合、全然問題ないじゃん、講義も聞いてて退屈なだけだし、だからさ、いうなればズル休みかな」
(・・・・・とかなんとか言っちゃって一昨日の夜また・・・ヌキスギタンダロ・・・・・)
「へーっ、な~んだ、ただの天才クンの気紛れか・・・それならいいんだけど・・アタシちょっとマジで心配してソンしちゃったなぁ・・・」
「ああ、ごめんごめん、でもゆっくり休んだし充電完了!あぁそうだ明日はオレも朝から講義あるし一緒に行こうぜ!」
「オーケー、じゃぁ、明日8時にくるからさ、ちゃんとトイレ済まして起きててよね」
「あっ、アヤ、ちょっと待って!」
「んん?なーに?」
「あのさぁ、オレ様が本当に元気になったかどうか試して帰らねぇか?ホラッ、こっちおいで、マイスイートハニー!」
「・・・バッカじゃねぇ?この世もあんたも矛盾しまくりだわ・・でもそんだけクダラナイこと言えるほど元気なら、マジ心配ないわねっ!じゃっ明日ねぇ~」
「・・ふぅ・・寝るか・・あれっ・・オレ晩飯食ったっけ・・ま、いっか」

翌朝木曜朝 真の家
「オバちゃ・・(シマッタ・・)ヒロちゃ~ん、オハヨーッ!真ちゃん起きてるっ?」
真の母がスリッパをパタパタさせながら出て来た
「おはよっアヤちゃん、今日も可愛いわね~、あーでもちょっと聞こえちゃったなぁ、また、わたしのことオバチャンって言いかけたでしょ?わたしはねっ19で真を産んでさぁ、まだ39なのよ、バリバリの女盛りなんだから、オバチャンなんて呼んで欲しくないんですけどぉ、女はねぇ“30サセごろ40シごろ”って云ってこれからが旬なんだから!まあいずれアヤちゃんにも解かる時がくるよ」
(・・・・・おばちゃ、いや、ヒロちゃん間違うと、いつもコレだよ・・オンナッテ・・・)
「は、はいっ!そ、そうですよね、ヒロちゃん、すっごく綺麗だし、アタシ19年後も今のヒロちゃんみたいに綺麗でいたいっていつも思ってますからっ!」
「あらあら、相変わらず正直なコ!でしょ?こんなイイ女が未亡人なんて勿体無いと思うでしょ・・・あっ、そういえば真ったらさ、まだ寝てんだよ、ちょっと上がって起こしてやってくんないかな、わたしじゃダメなんだよね・・それにあのコの部屋って、なんかちょっと臭うでしょ?特にゴミ箱がさぁ、そうだ、アヤちゃんにお願いがあんだけどさ、シン起こすついでにゴミの日には自分の部屋のゴミ箱の中身くらい自分でゴミ袋に入れなさいって言ってくれないかな?ちょうど今日木曜で可燃ゴミの日なんだ、わたしもさぁ息子の成長は嬉しいんだけどさぁ、息子のムスコからでたモノの臭いって、ちょっと嗅ぎたくないっていうか、ゾッとするんだよ・・部屋に入って漂ってる臭いだけでカンベンってカンジなんだから・・・・・ねっ、アヤちゃん、お願いね!」
「あ、ああ・・ハイ、わかりました」
(・・・・・そりゃそうだよな・・・・フクザツナキモチダロナ・・・・・)
 アヤは二階の真の部屋へ上がり、眠っている真の腹の上に乗っかって叫んだ
「オハヨーッ!オッハヨーー!おーーいっ!シ~~~~ンっ!起っきろっーーー!」
「ん・・・ダレだ??・・・・オフクロ?・・晩メシの時間か?」
「コラッ!アタシゃ、ヒロちゃんの半分しか歳食ってねぇんだぞ!しかも晩メシかって?あんた、なに寝惚けてんだよっ!今日は一緒に大学行くから起きて待ってろって言ったじゃん!」
「ん?あ、アヤ・・んんん・・・ア・・ヤ・ア・・アヤ、アヤ・ヤヤ・・」
「おいおいおい、あのさぁ、寝とぼけんのもたいがいにしてよねぇ、早く起きろっての、忘れないうちに言っとくけど、今日は可燃ゴミの日だからあんたの部屋のゴミくらい自分で袋に入れなよってヒロちゃんが言ってたぞ!」
真はようやく体を起こした
「ああ、アヤ・・オハヨ・・ふぁぁぁっ、なんだって・・ゴミ・・ゴ・・ゴミ・・」
「そうだよ!ゴミっ、ゴミだよっ、そこのさ、白くてやわらかい紙が大量に詰め込まれてるアレッ!アレの中身をさ、自分で処分しろってさ!」
ベッドから起き上がりながら
「はいはい、リョーカイしましたっ・・ったく、メンドクセーなぁ・・・」
「ハイハイーッ、そこのキミ!クセーのはあのゴミ箱の中身ですからね!」
真はゴミ箱を抱えアヤと階段を降りた
「オカーサマ、オハヨーゴザイマス」
「やっと起きたか、おはよ! アラ、ちゃんとゴミ箱持って降りたんだねぇ」
真の母はアヤの耳元でささやいた
「・・・ありがとね、助かったわぁ・・・」
「オイっ、オフクロっ!なにアヤと、こそこそ話してんだよ?で?このゴミどうすりゃいいんだよっ?」
真の母は突き出されたゴミ箱に鼻をつまみながら
「ああ、そこにさ、ゴミ袋があるでしょっ!それに移してくんないかな」
真は無造作にゴミ箱の中身を袋に移す
「あーっ、あーっ、ちょっとぉ、こぼれたヤツもちゃんと拾って入れてよっ!でさ、全部移したら、それで今日出すゴミ最後だからっ、袋の口をしっかりくくっといてよね!!」
「ハイハイ、・・これでいいのか?」
「あっ、ついでにその袋、アヤちゃんちの道路向かいにゴミステーションがあるからさ、そこまで持ってってくれると助かるんだけど・・あっ、アヤちゃん、悪いけど一緒に行って場所教えてやってくれない?」
「あ、ハーイ!よし、ホラ行くよっ、真!」
真はスウェット姿のままアヤとゴミステーションへ
「あーあ、なんでオレ様がこんなことしねぇといけねぇんだっての・・」
「そんなこと言ってないでさぁ、たまにはお母さんの手伝いするくらい、なんてことないじゃない!それにあんたの部屋のゴミ、袋に入れるのイヤだって気持ちアタシもちょっとわかるような気がするよ」
「へーっ、アヤはオフクロの味方ってワケだ!ナルホドネェ・・」
「え?あんたナニ言ってんの?こんなの全然どうってことないことじゃん!それにさ、あんたのお父さんが亡くなって女手ひとつであんたを育ててくれてんだからさぁ、ちょっとくらいヒロちゃんの負担軽くしてあげたっていいんじゃない?」
「いや、それはそうなんだけどさ、オレ様、最近ちょっとオフクロに腹が立つことがあってさ」
「な、なにが?なんかあったの?」
「なにがって・・なんもねぇけど、とにかく、なんかムカツクだよ・・なんでオレが・・」
(・・・・・どうしたんだこいつ?・・・・・・・イマサラハンコウキ?・・・・・)
「ま、まあさ、親子だから色々あんだろうけど、仲良くやりなよ!あっ、そうだ、あんたさぁ、ちょっと自分の日常を見つめ直した方がいいんじゃない?どうせ講義中も上の空なんだろうから、お題あげるからさ、今日ちょっと考えてみてよ」
「・・え・・・なんか言ったか?」
「だからさぁ、お題っ!」
「・・・ああ、お題ねぇ・・で?」
「もう、ちゃんと聞いてよ!『普通の日々』これがお題よっ!」
「今回のお題は普通の日々か・・・アヤ、迎えに着てもらってワリーんだけど、やっぱオレ様、今日も休むわっ!」
「えっ・・ちょ、ちょっと、どうしてさ?なんでだよー」
「なんか、今オレ、ってか最近、オレがオレじゃないみたいでさ、ちょっとこのままブラッとしてくるわっ! あとはヨロシクなっ!」
 真は突然笑顔で走り去る
「???えっ?・・えっ?なに?なに??どうなってんだよぉ・・・おーいっ、アンタっ、パジャマのまんまどこ行くってんだよーー」
(・・・・・天才の考えることって・・・・・・・・・ワカラン・・・・・・・・)

それから数日、真は家に帰って来ず、アヤにさえ連絡もなかった
真の母の話によると、アヤと別れた真は、財布も持たずにコンビニに行き、プリンをショーケースから取るなり食べ出し、金を持ってないことで店員が家に電話をし、母が迎えに行ったものの、母が店に着くまでの間も『オフクロが金持ってくるんだから他にも食わせろ』と言いチーズケーキ二つとカフェオレまで飲んでいたという。さらに母が連れて帰ろうとしたところ『悪かったな、ついでに二万かしてくれ』と言うと母の財布から金を抜き取り、またどこかへ消えて行ったとのことであった
ただ、いなくなった翌日、アヤの家のポストに数枚の紙が入れられていた
 
〔冷たい缶コーヒー〕  杉山 真

冬は寒い、当たり前だ。だが、転勤で一時間早く出勤するようになり、冬の寒さが一段とこたえた、玄関を出て近くの駅までの道程は変わらない。時々見ていたゴミ袋を出すオバサンもまったく会わなくなった。しかし、ずっと昔から見かける初老の男性は今も見かける。冬の日は、家の敷地内で火をたいて、何をするではなく火にあたりながら立っている。十年前くらいまでは、お互いに挨拶をかわしていたのだが、どちらからともなく「おはようございます」と言わなくなった。ただ、必ず目と目を合わす。それも俺の気のせいかもしれない、それとも何か通じるものがあるのか。ただ、わかるのは俺の人生などより、様々な事を経て人間としての大きな歴史を持っているということ、『お互いに年をとったね』 そんなことを考えながら歩いていたら、駅に着いた。早い列車でも、あいかわらずぎっしりと混んでいる。若者の多くは、携帯電話をいじっているが、今日は特別でそんな余裕はないようだ、「倒れる心配がないよー」と女学生が黄色い声で友達に言う。俺はどうにかツリワを握っていた。ゆれに弱いのだ、二十分の辛抱、列車を降りたらバス停まで走らなければならない、ギリギリの時間である。今日はラッキーなことに席に座れた、バスは川辺りをしばらく走る。途中で小学生がたくさん降り、急にバスがガラガラになる。結局、俺は左遷されたのだ。ある日、上司が言った言葉が思い出された。「君は、仕事でトラブルが多いうえに家庭でも奥さんとうまくいっていないそうだね」悔しかった、しかし、返す言葉がなかった、その通りだったからだ。俺は深く溜息をついた。このバスには、きまりきった路線がある、俺の人生の路線はこれからどうなるのか、うとうとしている間に外では雪が降り出していた、このまま果てしなく遠くまで行ってしまいたい、そんなバカげた衝動にかられた。不思議なことにバスの中が非常に心地良いのだ。と思っていたら、突然バスが止まった、どこかが故障したみたいだ。運転手も会社に連絡をとった後、困りきったままである。十分もすれば、直ると思っていた俺も非常に困った、次のバスもまだ来ない、俺はバスから降り走り出した。ここまで来たらそんなに遠くない、遅刻するわけにはいかないのだ。高校時代、陸上部だった俺は、遅刻せずに会社へ到着することを確信していた、服は雪まみれでハァハァいいながらロッカー室で作業着に着替える。どうやら間に合った、ホッとした。仕事始業のベルとともに、いつものように仕事が始まった。対面の二歳年上の女性が俺に缶コーヒーを差し出した。俺は、「ありがとう」と言って缶コーヒーを受け取ったが冷たかった。当然、暖かい缶コーヒーだと思っていたので少し驚いた、「バス停で、あんまり寒かったのでカイロがわりに買ったのよ」きょとんとしている俺を見て、ふふっと笑った。彼女の無邪気な笑顔が、なんとも面白かった。能天気な女性だなぁ、この人にも、その毎日元気な笑顔の裏にきっと俺の知らない色々な歴史があるのだろうな、それにしても、この缶コーヒーは冷たいね
FIN

真の失踪から七日後 真の母からメールが入ったアヤは急いで帰宅した

「ヒロちゃんっ!真っ、帰ったって?」
「アヤちゃんっ!来てくれたんだ、ごめんなさいね、真ちょっと前に帰ってきたんだ。いったい真、どうしちゃったんだろ・・それにさ、帰ってくるなり『これ利息つけて返すぜ!』って五万円もくれたんだ・・いったいなにやってたんだろ、あの子・・ホント・・・・心配だわ・・でも帰ってきて良かった・・・」
「真いるんだよね、アタシちょっと話してくる」
真の部屋の前
「真っ!あたしっ、アヤ!、入るよっ!」
「ああ、アヤか、入れよっ!」
「ちょっと、あんたこの数日連絡もよこさずナニしてたのよっ?」
「んん?なにってちょっとブラブラさ、アヤからのお題もポストに入れといただろ!」
「ああ、見たよ!見たけど・・ちょっとブラブラって・・ヒロちゃんすっごく心配してたよ!!アタシだってあれからすっごく気になって、あんたいつもと様子が違ってたし、携帯も持たずに消えちゃったから心配で・・・」
「・・・そっか、じゃあ、ひとまずオレ様の実験は成功ってことだなっ!」
「え?どういうことよっ?実験って・・・あんたひょっとしてアタシ達を・・・」
「あ、いや・・オレ様がさぁ、もし突然居なくなったらアヤやオフクロはオレのことをどんだけ心配してくれんのかなぁって・・でも結局さぁ、オフクロに借りた金でネットカフェ行ってさ、お題について書いたんだわ、そんでアヤんちのポストに入れた後、ふらっとパチンコ行ったんだけど、軽く使い切っちまうつもりがバカ吹きしちゃって20万くらい勝っちまったのよ、で、最初は2・3日で戻る気だったんだけど、しばらく放浪できる資金が出来たからさ・・カプセルとかネットカフェでぼーっとさ・・・」
バッチィーーーン!!
「バッカヤローーッ!」

 

 

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