サファイア12 黄昏て
赤木大河は、黄昏ていた。
人生の周期というか、そんな時が数年に一回訪れる。
沈んでゆく夕日を見ながらボケッとしている。
あァ、これまでの人生かなり忙しかった、大変だった。
今頃、これまで通り、チベットで師匠や師範のダイヤモンド7は、修行に励んでいるのかな。
俺こと赤木大河は、今、道に迷っている。
俺のこれからの将来は?
相変わらず、波瀾万丈か?
俺のこの世に生まれた使命は?
師匠やダイヤモンド7の修行の目的は、わかる。
それは『生命の花』といわれる「フラワー・オブ・ライフ」と一体となるため、日夜、修行をしているのだ。
古くから知られている神聖幾何学の一つ。
宇宙の万物は幾何学的で、すべてこの「フラワー・オブ・ライフ」という単一のパターンで成り立っていると師匠やダイヤモンド7は考えている。
師匠は今のチベットに、それを会得する鍵があると感じ過去からタイムスリップしてきたのだ。
師匠こと彼の名は、アルセーヌ・ルパン。
不可能を可能にする男。俺こと赤木大河は、今、師匠や師範ダイヤモンド7のもとを離れ、自由気ままに藍子と暮らしている。
その『自由気ままに』という奴がやっかいなのだ。
いわゆる、『適当』だ。
何かに燃えていない。
でも、時空を前後して、越える術は、この前やっとマスターした。
以前、過去にタイムスリップした際に、助けてもらった『イア』という不思議な女性からもらった石術模様が描かれてある小石にすべてのヒントがあった。
その小石と今までもっていたテレポテーションする時に使用していた伝説の『サファイア』を凄い祈念とともにシンクロさすことによって、タイムマシンと同様な時空間の移動が可能となった。
石術模様が描かれてある小石は、中条律子が持っているアンモナイトと同じ力を発揮した。
そして、サファイア12はタイムマシンだけでなく、瞬時拳をさらに改良して、『瞬時拳亜流七分身』という技を編み出した。
このように、赤木大河ことサファイア12は日々、進化をしているのだが、果たしてそれが、この世の二十一世紀の正義の使者として、どういう意味があるのか疑問に思える今この頃であった。
それが赤木大河が、今、落ちてゆく夕日を見ながら、黄昏ている原因であった。
『生きる』って何だろうか。
今日はなんとなくブルーであった。
俺はこれまで何を追ってきたのか。
俺は何のため戦ってきた。
そして、俺は何のためにこの世に生まれてきたのか。
だが、しかし、人の命のはかなさよ。
生をまっとうする人もいれば、アッという間に死んでしまう人。
今、生きるしかないのだ。
今、やるしかないのだ。
道は遥かに続いている。
道を追い続けていたい。
生き続けていたい。
時は巡り巡ってゆく。
この広い空は、今、修行中のアルセーヌ・ルパンこと師匠や師範ダイヤモンド7や仙人デュパンにもつながっていて、あァ、この人生の出会い・一期一会よ。
なんか、少しずつ、赤木大河の身体が熱くなっていた。
その時、背後の右肩をツンツンとつつかれた。
振り向くと、川島藍子の笑顔。
藍子、なぜ、ここがわかった?
「もう、大河、探したんだから。また、この前のように、いなくなっちゃったのかと思っちゃった。ビックリさせないで。大河がいないと私はダメなのよ」
赤木大河はたまらなく嬉しかった。
必要とされている。
前にも、こんなことなかったか?
師匠アルセーヌ・ルパンが俺のことが心配になり、それで、師範ダイヤモンド7が飛んできて、俺を助けてくれた。
また、困った時に敵であった仙人デュパンでさえ、窮地に手を差し出してくれた。
なんと、ありがたいことであろう。
「俺も、君がいないとダメなんだ。愛しているよ」
「君じゃないでしょ、藍子。ア・イ・コ」
「あァ、藍子、愛しているぜ!!」
サファイア12こと赤木大河は、藍子にぞっこんで、藍子も大河にぞっこんである。それは、引き続きコインというショートショートを読めばわかる。
サファイア12 コイン
ある日、藍子が買い物から帰って来ると、赤木大河(サファイア12)はパソコンに向かって何か打ち込んでいた。
不思議そうに珍しそうに藍子は大河を見つめる。
後ろから藍子が「何してんの、大河?」と大河を抱きしめる。
「ちょっと、やめろよ」
「えっ、まさか浮気」
「ふふっ、ちょっと、とっても短い適当なショートショートを自由気ままに書いていたのさ、今、やっと完成」
「大河、書きものなんて、趣味があったの?見せて見せて」藍子がせがむ。
「いやだよ。誰でも秘密はあるものだ」
「私達の間には秘密なんてないでしょ」
「ふーん」
「何よ」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから、何?」
「じゃあ、毎朝、五時から五時十五分の間、何してんの?」
「えー、知っていたの?」
「毎朝、寝たふりしているよ」
「・・・・・・・実はね。あー、大河に捨てられるわ」
「俺がそんな人間に見えるか」
「・・・・・・・・・・・・」
「いいから言ってみろよ」
「実は・・・・実はね、もう言うわ。大河と付き合う前に彼氏がいて、愛し合っていたんだけれど、彼、交通事故で簡単に死んじゃったの。今、大河と幸せに暮らしていて、なんか幸せ過ぎて、彼に申し訳なくて、毎朝十五分外で冥福を祈っていたの」
「素晴しいことじゃないか。それでこそ、俺の恋人、藍子だ」
「ありがとう、大河。なんかホッとした」
「話は戻るが、このショートショートは、この文章は宝石術使いサファイア12の原型なんだぜ」と大河が言った瞬間、パッと部屋が青色の光に包まれた。赤木大河ことサファイア12は、「さぁ、どうぞ、読んで見てください」と藍子にA4の紙を手渡した。
〔コイン〕
俺は自宅の自分の部屋で寝ころんでいた。
最近、なんかいいことないな。
仕事も失敗ばかりで人間関係も今一つ。
当然、星座は見えやしない。
部屋の中だから当たり前だが、人生の星座が見てみたい。
ところで、星座って、いくつある。
まあ、今、そんなことはどうでもいい。
いや、俺は天秤座なんだ。
曖昧で中途半端なのはいかにも天秤座らしい。
俺の春はいつ来る、ミスユニバースと結婚したい。
あーあ、散歩でもするか。
外はなんて、いい天気、ハワイでも雨は降るんだろ?
この日本の夏は熱中症になりそうだよ。
こんな汗の吹き出る日曜日、鮮やかな花火が見たい。
でも、花火が終わった瞬間の帰り道の人混みは……
思考回路がショート?滅茶苦茶だ。
面白くない人生、つまらない人生だ。
いつか先輩に言われたな、人の役に立つ人間になれ!か。
とぼとぼと歩くだらりだらり散歩道。
大きな書店の前を通って行く。
あれれ、子供が自動販売機の前で泣いている。
自動販売機の前で、子供が百円玉を握りしめ、泣いている。
どうしたのかと、自動販売機を見てみると、三十円入っている。
ハハー、百円玉が自動販売機にインプットされずコイン投入口からすどおりしたのだ。
俺は、その子供の目を「大丈夫!」と見つめた。
俺を信じろ、とその子供から百円玉を拝借した。
えぇー、と子供は唖然とした。
俺は左手の中指と親指でパチンと音を三回鳴らした。
そして、俺はコイン投入口に百円玉を持っていき、添えた。
ゆっくり、そう、ゆっくりと百円玉を挿入し落とした。
カチッ、と百円玉が入り、百三十円のランプか灯った。
俺は子供に成功したとウインクして、好きなジュースを選べと右手で指差した。
俺はそそくさと歩き出し、振り返ると子供は自動販売機のボタンを押していた。
「やったぜ!」と俺は心の中で叫び、実はあの子より俺の方が嬉しかったんだと思った。
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「赤木大河さん、あなたが自動販売機の投入口にそっとコインを挿入する瞬間が、サファイア12になる時なのですね」と藍子は語った。
もしかしたら、少年は藍子と大河の愛の架け橋で、今ここに三位一体の新たなるサファイア12が誕生し、21世紀の平和の使者として、生命の愛のジュースを人類に配り、どんな感染症にも負けないのである。