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摩訶不思議?サファイア夢物語

 

今日は、なんとなく変な気分がする。朝食もとらずに、あわてて駅にダッシュ。昨日、めずらしく目がさえて徹夜してしまった。
列車に駆け込む。セーフ。これに間に合わないと遅刻する。珍しく、ひとつ席が、空いていたので、座り込んだ。
 うとうとしていたら、携帯から不思議なメロディが鳴り(実際には鳴っていないのだが)
「おい、貴之」声がする。
 どうやら夢の中に入ったらしい。
「おい、貴之、これがわかったら結婚準備金の百万円やるよ。どうだ、やってみるかい?」
「いつもの気まぐれだな、広。やけに自信満々だな。それじゃあ、俺が負けたらどうなるんだ」
「一万円くれよ」
「やけに困っているんだね。どんなクイズだい」
「問題を出してしまったら、やめたはナシだぞ、いいかい」
「オーケイ」
 広は一本のビデオテープを持ってきた。
「実はこのテープ三回ダビングしているんだ」
「最初にダビングした映画が何かっていうのが問題さ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「怒った?」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「わかった、悪かったよ、冗談さ」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おい、おい」
 さえぎるように貴之が言った。
「面白いじゃんか。もしかしたら、わかるかもしれない」
「えっ、わかる?」
「いや、かもしれないと言っただけさ。あれを使えばね」
「あれって」
「この前、お前が自慢して見せてくれた、お母さんの形見だよ」
「確かに変なクイズを出したのは僕だが答えを知っているのは僕以外にいないじゃないか」
「まぁ、いいから早く指輪を持ってこいよ。ちょっと、胸がどきどきしているんだ」
「わかった、本当はよくわからないけど。でも、一万円を忘れるなよ」
 広は、母の形見のサファイアの指輪を渡した。貴之は、じいっと指輪を見続けている。
「何をしているんだい」
「感激しているのさ」
「何に」
「この輝きの美しさ。見ろよ、この色を」
「でも、映画とは無関係だぜ」
「まァ、見てろ」
 貴之は宝石の持つ魅力に心底、感激しているようだった。そして、感激が感動に変わり、その感動は、大きく膨らんで広の部屋をぐるりと丸く包み、時間が少しずつ狂い始めた。
 チック・タック、チック・タック。
 広はお笑い番組を見て、腹を抱えている自分を見た。次にテレビから映画『愛と青春の旅立ち』が流れ出した。主人公が、しごかれて、しごかれて、叫んだ言葉。
「行くところがないんだ。俺にはここしか行くところがないんだ」
 広の一番好きなシーンだ。
「あァ、確かに今、過去に時をさかのぼっている」
 広は何とも不思議な気持ちになった。
 そして、問題の最初にダビングした映画だ・・・・・・・・・・・これは、タッチをパロディ化した恋愛映画か?
 貴之は、広が観たその変わった恋愛映画に引き込まれていった。

 そして、広は映画を見ている自分を自分が見ている。

 

 

 

大阪ラブストーリー

 

「和也さん」
俺は同じ年くらいの女性から声をかけられた。俺は今年で二十一歳になる。
「覚えてない?私は南。高校の時、同級生だった」
彼女は眩しく光っていた。綺麗でモデルみたいな抜群のスタイルをしていた。
「無理ないか。話したことないもんね。ただ私が勝手に憧れてた。高三のバレンタインデーも手作りチョコ、勇気がなくて渡せなかった。高木和也さんに夢中だった。それから、和也さんは京都の大学へ。私は地元の広島の大学へ。今、ここ大阪の街で、声をかけないと、一生、別れ別れ。まさか、大阪の街で、会うとは思わなかった」
南は一気に喋った。自分でも信じられないくらい。三年間の心の想いが吹き出した。気持ちは変わっていなかった。
「あの………」
「いいのよ。私が勝手に好きなだけだから」
「せっかくだから、どこか行こうか?」
「ホント?いいの」
「俺、一人旅で大阪に来ている。偶然だね。どこへ行こうか」
「嬉しい。ユニバーサルスタジオジャパンに行かない」

 

☆    ☆    ☆    ☆    ☆

 

 夜の大阪の街。その一角の居酒屋で二人は酔いしれる。
「大阪の夏って暑いわねえ」
「そうだね。ところで、俺は一人旅だけど、南は何しに大阪に来たの」
「私、独自にお好み焼きの研究していて。大阪のお好み焼きを色々と調べに来たの」
「そうか、広島風とよく比較されるもんな」
「ユニバーサルスタジオジャパン、楽しかった。迫力満点」
よっぽど楽しかったのか、南は目をキラキラさせて言った。
「そうだね。バック・トゥ・ザ・フューチャー凄かったね」
「ETは暑い中、人が並び過ぎて、諦めたけど残念だったね」
 南は子供のように悔しそう。
「また、来ればいいさ」
「わぁー、嬉しい。また、か。こんな日が来るなんて………」
思わず南は泣きだした。
「泣くなよ、俺って、そんなにイイ男じゃないぜ」
「三花高校の好感度No.1だったの、知らないの?」
「南の方が綺麗過ぎる。ここら辺で、お互いに褒めるの止めようか」
 二人はホテルで愛し合った。セックスした後、南は急に甘えてきた。
「カズ君、カズ、カズ………」
「どうした、南」
「私、よかった?」
「オーナイスバディ!ダイナマイツ!」
「いつでもカズのものよ」

 

  ☆    ☆   ☆   ☆   ☆  

 

 俺は実は、高木和也ではなかった。俺は高木達也。双子の兄弟だ。幼い頃、両親が別れ、俺は父親へ和也は母親に引き取られた。
成り行きで、南と付き合うようになったが、実は一年半前に和也は交通事故で命を落としていた。
俺は、福岡の大学にいたのだが、和也がいなくなって独りぼっちになったオフクロが心配になり、広島の大学を受け直し合格した。
俺は今、広島の大学に通っていた。南には京都の大学から広島の大学にやはり地元が良くて受け直したと嘘をついている。そういう訳で、うまいことにお互い広島の街で気軽に会えた。
週末は映画を観に行ったり、ドライブしたりといつも楽しくデートしている。最近、南は俺に遠回しに結婚を要求しているように感じる。だが、俺は高木達也だ。
和也じゃない。どうすればいいものか?素直に本当のことを言えばいいのだが、それによって、別れがくるのが怖い。もう、それだけ、俺は南を愛していた。

 

 ☆   ☆   ☆      ☆      ☆

 

「和也、私と結婚してくれない」
「………いや、それは………。このままの関係じゃダメか」
「私のこと嫌いなの?」
「いや、愛している」
「ふーん、何か訳があるの。……………………高木達也さん」
「南!俺が達也だと知っていたのか」
「時々、何か、違和感を感じるので、悪いけど、素行調査させてもらった。和也は亡くなっていた。あなたは、双子の達也さんだった。いつか、言ってくれると思ってた。でも、あなたは、和也になる道を選んだ」
「………本当のことがわかると、別れ別れになるんじゃないかと………。自信がなかった」
「そんな訳ないじゃない。今、私が愛しているのは高木達也。達也、私のクリトの横に何があるか知ってる?」
「ホクロだろ。なめると、南が悶える声がする」
「もう、達也ったら、………。でも、それを高木和也は、知っていない。知っているのは達也だけ。二人だけのヒ・ミ・ツ。達也、愛しているわ」
 俺は南をベッドに押し倒し、南のブラウスの第一ボタンが弾け飛んだ。

 

    ※       ※      ※

 

 広はハッとして我に返ると貴之が一言。
「答えはタッチのパロデイ映画で『大阪ラブストーリー』だね」
 ・・・・・・・・・・
「どうして?」
 広はまだぼぉーとしている。クイズは正解だがそんなことはどうでもいい。
「僕は物事に胸に打たれることが多くてね。小さい頃では、虹をはじめて見た時とか高校生の頃では、天文学部のキャンプで流星群を見た時とかね。感激して、感激が深い深い感動を呼び時間の感覚が麻痺するというか、違ってくるんだ時間の感覚が。その時その時で何が起こるか自分でもわからない。この前、指輪を見せてもらった時、これはと心が震えたんだ」
「それで、さっきの現象が?」
「信じてないな。僕だって何が起こるかわからないのさ。僕もビックリしている」
 広は、不思議そうに指輪を見る。
「古い映画だったけど楽しかったよ。百万円はお前の恋人とオフクロさんに渡しとくよ」

 

   ☆   ☆   ☆   ☆

 

 列車がガタンと停まり目が覚めた。昨日の徹夜がこたえたのか、終点まで来てしまった。 俺が寝過ごすなんて珍しい。それにしても、色んな出来事がからまりあった不思議な夢を見たもんだ。
 今日は、もう休んでしまえ。大丈夫だ、今日は、これといった予定が入っていない。
 さて、トンボ返りして、久し振りに墓参りに行って見よう。オヤジの前で『何か』をそろそろ真剣に考えて見よう。俺の心の声を聞いてくれるかい、なァ、オヤジ。今、いつもと違う風が、心の中で吹いている。