檸檬インフィニティ∞ | 五月 鯉之介 |本 | 通販 | Amazon

 

 

檸檬の絶対はずせないもの

 

「例えばトイレットペーパーの芯で人生語る」と高野進こと自称ブルー王子(それはただメガネのフレームがブルーなのでそうニックネームがついただけだが)が恋人の檸檬に言った。
「えっ、トイレットペーパーの芯? またお得意の詩で?」檸檬はからかう。
「あァ、ちょっと、天から詩が降りてきた」
「ロマンチックな男の子なのね。ブルー王子様!」
「俺様をバカにしてんのか、檸檬」
「いいから、いいから、早く披露して」
 ゴホン、と咳払いをして、「いくぞ!」と高野進は語り始めた。

 

トイレットペーパーの芯 その1


俺はトイレットペーパーの芯を
ゴミ箱に向かって投げた
芯はゴミ箱のカドに当たり
弾けてコロコロ転がって
ピタッと円柱として立った
その瞬間の出来事だった
芯の筒から赤い閃光が発せられ
芯を中心にゴトンゴトンと
家が回り始め回転しながら
ドドド・バキューンと
我が家が月に向かって
高速で飛び始めた
帰る頃には俺は「かぐや姫」を
ゲットしているのだろうか?
まっ、たぶん、夢だろうけどね

 

「ハハッ」と檸檬は大笑い。
「かぐや姫はゲットできなくても、檸檬はゲットしてくれるんでしょ」
「もちろんさ」
「シャア・アズナブルのような赤い閃光がまずかったのかも。ブルー王子だけに。青い閃光にしたら」
「そしたら、檸檬じゃなく、かぐや姫をゲットしてしまうじゃないか」
「くだらない。けど、ほんの少し嬉しいかな」
「なら、この前、書で達筆の『薔薇』時いう字を書いてもらったんで、今度は『檸檬』という字を書いてくれないか」
「やだ、恥ずかしい」檸檬は書を少々たしなむ。
「それはそうとトイレットペーパーの芯 1を語ったということは、トイレットペーパーの芯 2もあるんでしょ。早く披露して!」

 

トイレットペーパーの芯 2


ゴミ箱に使い終えたトイレットペーパーの芯を
投げ入れようとした
が、一瞬時が止まった
「絶対外したらダメだ」
「檸檬を絶対ゲットするんだ」
そんな思いが全身を駆け巡った
たったゴミ箱に芯を
投げ入れるだけなのに
何かとてつもなく大きなことに思えた
そして俺は精神を集中させ
魂を込めて
1、2の3で芯をゴミ箱に投げた
芯は弧を描いて
ゴミ箱に吸い込まれていった
この呼吸だ
人生、簡単に思えることでも絶対はずせないものがある

 

「どうだ、檸檬」
「檸檬、嬉しいよ、人生の教訓ね」
「何でも、そうだと思う。人生には絶対にはずせないものがあるんじゃないかとね」
 今のところブルー王子の夢はプロのサッカー選手。
檸檬は書の奥を自分なりに精進し極めること。
「私の夢は、一生、書を書き続けること。さっき、進が言った、『薔薇』でもいい、『檸檬』でもいい、どんな時代もいつの時代も、『昭和』・『平成』・『令和』・・・・・・・。檸檬は書きたいのよ。たったゴミ箱に芯を投げ入れるだけなのに何かとてつもなく大きなことに思えた。そしてブルー王子と檸檬は精神を集中させ魂を込めて1、2の3で芯をゴミ箱に投げた。芯は弧を描いてゴミ箱に吸い込まれていった。この呼吸だ。人生、簡単に思えることでも絶対はずせないものがある」
ブルー王子と檸檬は絶対にはずせないものを手に入れた。この日この時この瞬間の生を。