『サンデー』
ある日曜日。その日は、別に用事などまったくなかった。だからと言って、競馬やパチンコといったギャンブルをする気もなかった。
時計を見ては「時は人間が勝手に作ったものだ」とある作家が書いた文章を思い出したり、ある歌人の「この世に生まれた証たて」と書いた詩の中のフレーズが頭にチラついたりした。証か、俺のこの世に生まれた証は、何だろうか?
何となく頭の中が、おかしな感じがし、断片的に色々な事を思ってしまう不思議な日だ。 外に出て運動して、おいしい空気をいっぱいに吸いたい反面、今日はひとり家の中でい
るのは、確実であった。
人間というのは、おかしなもので、他の人から見れば、バカらしい小さな過去にとらわれている。
完璧に見える人もそうだし又、そんな立派な人でも、あれっと思う癖を持っている。つまり、この世に完璧な人などいないのだ。
生まれてきたのだから、生きて行かなければならないが、自らの手で人生を終わりにしてしまう人も多い。次の日は、何が起こるかわからないのに。
それはとても惜しいことのように思える。逆境のあとにピンチのあとに、しばしばチャンスが訪れる、不思議なことに。
再び言うが、自らの手で人生を終わりにしてしまう人も多い。
それが、寿命なのか、運命なのか、だれにもわからない。本当に、この世はわからないことだらけだ。
今、軽い頭痛がしている。こんな事を考えているせいか。でも、めったにない事なので我慢しよう。時計を見るが、さっき何時だったか覚えていない。人間が勝手に作った時を。
この果てしない宇宙からすれば、人間の存在、一生なんて、どのような意味があるのだろうか。ちっぽけで、宇宙から見れば、塵の中の塵である俺達。
とにかく、自分のためでも家族のためでも、人は働いていればいい。エジソンのことは、詳しく知らないが小さい頃から発明が好きで社会に役立つものを多くこの世に残している。
まさに天職である。我々、凡人にとって働くこと、仕事というのは生きるためのもの。
つまり金だ。金がないと暮らしてゆけない。金は、無ければ心に悪魔が住み着くことがある。又、あり過ぎても恐い。人間のどろどろとした心と絡まりあうと、色々な事が起きてくる。
所詮、人間なのだ。「どんな君子でも」と小説の中で漱石も書いている。それとは別に、お金は健康とも密接な関係にある。お金がないと健康も害する。そして、お金がないと恋愛も苦しくなる。生きてゆく上で俺にとって健康同様、女性は大切である。
女心は、難しい。それもそのはず、男性自身でさえ、よくわからない。自分自身でさえ、よくわからない。しかし、何かやりたい事、男性女性をとわず目標を持ち日々努力している姿は美しい。
あるきっかけで、何かに出会い、それに邁進している人は素晴らしく輝いている。さらに欲を言えば、その目標の中に様々な壁や段階があって一生につながるものだと、もういうことはない。
そういうふうに生きてみたい。それは、今日みたいな日に寝転んでいる人間の願いか、望みか、あるいわ、悲しみか。ふと考える、俺は今まで何をしてきたのか。
たとえ今までがムダな日々であったとしても、それがムダであると気づくにはムダな日々を過さないとそのことに気づかない。
「気づく」という視点から言えば、ムダな日々などないのである。そして、今、俺は何かに気づいた。
目の前の精神的な霧が晴れ渡ってゆく。スーッと頭の痛みが取れた。
心が軽やかになる。よし、軽く川辺りを散歩でもしてこよう。
桜のピンクの花が散って、木々は力強く緑々と茂っていた。すべてのものは生きている。頑張って見よう。自然の生命力に励まされた。そんな気持ちがした。
きっと、やれるはずだ。人はきっと人生を生き抜く能力を授かって生まれてきているはずだ。誰だって、できるはず。俺にはまだまだやるべきことがたくさんあるのだ。
こんな志を半ばにした状態で、俺はいる訳にはいかないのだ。明日に向かって、顔を上に向けて歩き出さなくては。一歩ずつ、一歩ずつ。志を胸に秘めて。
だが、しかし、人の命のはかなさよ。オヤジやオフクロも亡くなった。生をまっとうする人もいれば、アッという間に死んでしまう人がこの世にはたくさんいる。
そうなんだ、今生きるしかないのだ。そうなんだ、今やるしかないのだ。道は遥かに続いている。生き続けていたい。道を追い求めていたい。時は巡り巡ってゆく。その時の中で、日々俺は今のところ確実に生きている。
人には人の天命があるはずだ。俺の天命は・・・・・・・・・・。蘇る蘇る幼き日々の自分の姿が。俺の本当の姿とは。何かが遠くにぼんやりと見えてきた。今の記憶と昔の記憶がオーバーラップし、なぜだかドキドキしてきた。脈が打つ脈が打つ。胸を打つ胸を打つ。
何の為に俺は生きているのか。そうだ、思い出した。俺は思い出した。俺は小さい頃から数学者を目指し、そして数学者になり、一生、数学の研究を続けていたい。俺はまれにみる天職に恵まれた幸せ者だ。生きるって素晴らしい。今俺が太陽となって、光り輝き出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「もしかしたら、この子、もう大丈夫じゃないの?」と言って優子は、麗子を見る。
「私も、そう思うのよ」
「じゃあ、私達の役目も、もうおしまいね」
そこへ、哲昭が現れた。なぜか、目が濡れている。
「行ってしまうの?オヤジとオフクロのところへ・・・・・」
「哲昭、知っていのね。あの事故で助かったのは、本当は哲昭一人だってこと。そして、私達が幽霊だってこと・・・・・」
哲昭はうつむいていたが、
「俺が、おかしな状態では、四人とも成仏できないから、姉さん二人がこの世に残ってくれたんだね。俺が、再び自信を取り戻す日まで」と言う。
麗子と優子は見つめ合う。
「本当に大丈夫かしら?」
哲昭は、軽く微笑んだ。二人はホッとした。昔の自信に満ちた哲昭がいる。もう大丈夫だ。
「自信をしっかりと持って、目標に向かって、あせらずに、ゆっくりと歩いていくよ。ありがとう、別れは悲しいけれど・・・・・・・・さよなら」
哲昭の前から二人の姿がすうっと消えていった。安心と愛を残して・・・・・・・・・
完