檸檬とゼロの発見

 

 キャバクラ・スズランで桜木エイジと檸檬が話をしている。

 なんでもいいから、檸檬と話したい。

「この頃、書の方は色々と書いているのかい?」

「えぇ、順調よ、ただ・・・・・・・・・」

 よからぬ兆候か。

「ただ・・・・、なんだい」

「違うことにも興味がわいてきて」

 なになに、一体?

「例えば」

「人類の歴史みたいなものかな」

 なんだ、なんだ。

「ふーん、大きく出たね」

「バカにしないで。真剣なんだから」

「その歴史って何?」

「ゼロの概念の定義とか。『いかなる数に0を乗じても結果は0である』『いかなる数に0を加減してもその数値に変化はおこらない』とにかく、ゼロの発見は数学の世界だけでなく、物凄いことなのよ」

 この話題についてゆかなければ。

「7世紀、ブラーマグプタによって発見されたんだったよな。確かに、何もないことを表現することは凄い。人の思想にも重要な関係がありそうだ」

「お金の発見・愛の発見・香辛料を求めたコロンブスの冒険。そんな積み重ねで私たちは、ここにいる。歴史の探求は大切だと思うの」

 エイジは最近、勉強熱心になった檸檬のことを思う。

 もともと真面目だもんな。

 俺も少し爪の垢を煎じて飲まないと。

 歴史か、歴史ねぇ。

 俺と檸檬の歴史。

 書と小説。

 そういえばショートショートすら書いてない。

 何事もきっかけが必要だ。

 俺もそろそろ真剣に何かを書きたい。

「俺達、人間一人ひとりも重要な歴史のコマ、登場人物なんだぜ。日々、書の勉学にいそしんでいる檸檬だって」

「そうだね。つい色々なことが脳裏をよぎる。もし、織田信長が死ななかったら、もし、坂本龍馬が死ななかったら・・・・・・・・」

 出たー、織田信長!

 出たー、坂本龍馬!

「そうか。案外、檸檬が家で二人の名を書で書いたら、生き返りそうだな」

 急にエイジは眠気に襲われた。

 そして、コクリと寝てしまった。

夢に織田信長と坂本龍馬が出てきた。

 生意気そうな織田信長。

「わしは、世界征服をしていただろう。残念ながら、1582年に突然に生涯をとじてしまったが」

 精気満々な坂本龍馬。

「わしの海援隊は、世界の海援隊になって世界中を駆け巡っていただろう。わしが池田屋で暗殺されなければ」

 ハッとエイジは目を覚ました。

 ニコッと檸檬が笑っていた。

「はかったな、檸檬!」

「だって、ちょっと、からかってみたかったんだもの」檸檬は噴き出している。

 ゼロの発見。

 お金の発見。

 愛の発見。

俺達がこの世に俺達しかいない発見。

 香辛料を求めて航海に出たコロンブスの冒険。

 すべての歴史の流れ。

 その大事さを考えさせられたうえで、ころっと檸檬に騙された。

 それにしても、ゼロの発見か。

 これはやはり、凄いことである。

「無」を体験したことがある人は考えが柔軟である。

 すべてが当たり前だと思っている若者は、考えが甘いのではなかろうか。

「無(0)」を経験しているから、どんなことがあっても対応できる。

「無」の体験が人を大きく成長させる。

 エイジは少し、織田信長と坂本龍馬に感謝した。

 どこで檸檬が「ゼロ話」を思いついたかわからないが、檸檬は相変わらず独特の感性とヒラメキをもっている。ちょっと理屈ぽいがゼロの体験は人には必要だ。

 エイジはつくづく、ゼロの体験の必要性を痛感したが、自分の人生に檸檬は常にいて欲しいと心から願うのであった。檸檬への正真正銘の『愛』の発見。

 

 

 

「『ゼロの発見』か。偉大な発見は凄いね。私達、この大学生活をムダに過したくないね」

「俺達って、なぜ生きて行けると思う。その毎日の活力は? それは明日があるからだと思うんだ。希望に満ちた明日。明日はいいことがある。素晴らしいことがある。きっと、明日は輝いている。だから、生きて行けるのさ。これが俺の『明日の発見』」

「でも、『ゼロの発見』って、理屈ぽいの? 様々な『発見』って理屈ぽいの? 明日は? 私達が深くかかわってきた人達の明日は、一体どうなっているのだろう。真、そうは思わない」

「アヤ、『明日』って言葉が入いる詩を作ってくれよ」

「いいわよ、それが『お題』ね。でも、もうすべて『明日』が出尽くしているように思えるけど。人生の活力がね」

「わからないけど、作ってみてよ。アヤには不思議な感性があるからな」

「そんなの、ただの買いかぶりよ。でも、私なりに『明日』について考えて見るわ」