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「このショートショートは独特の世界観があると思ったわ。米津玄師のLemonという曲が流れる中で、謎解きがなされる。主人公檸檬はやはり、超能力者か。私、檸檬はただの凡人だけれども。物語はまだ続きがありそうなところで、終わったカンジがいなめないけれど。でもハッピーエンドでよしとしようか。元カノと寄りを戻したのね」と檸檬はショートショートを解説した。

「やっぱり、恋愛ものよね。だって、胸がときめくもの」と遥。

「そういえば、高校時代に王子と呼ばれていた檸檬の彼氏は、今何をしているの? 檸檬と付き合っていたよね」

「あァ、イケメン王子ね。ハンサムだったわ。彼とは二年間付き合った。とても楽しい思い出よ。お弁当を作ってあげたりしたわね。サッカーに夢中なナイスガイだった。ただ檸檬が一番苦しい時期にそっけない態度(返事)をされて、そこから覚めていった。彼は今、東京で暮らしている。時折、広島に帰ってきて、いっしょに食事をするけど、昔みたいに胸はときめかない。一度嫌いになったものを好きになるのは難しい。嫌いなピーマンはなかなか好きになれない」と檸檬はしみじみと語った。

「もう、誰とも好きになってないの。付き合っていないの?」と遥が檸檬に聞いた。

「なかなか恋愛は難しいね」と檸檬。

「イケメン王子はサッカーに夢中で、檸檬は学生時代何に夢中だったの?」

「私、やはり、書かな。でも、書だけじゃなかった。ピカソの絵にも興味があった。ピカソの『青の時代』と私のある時期がオーバーラップしていた」

「ピカソって、友達の詩を乗り越えて、幸せな『バラ色の時代』を迎えたのだね」と遥。

「そうよ。私達も成長しなくっちゃ。誰もが、もがき苦しむ『青の時代』はある。徹さんはもう乗り越えているだろうけど」

「おいおい、俺が四十歳だからか。五十歳過ぎて、青春の人がいるぜ。人生何が起こるかわからない。人生って、素晴らしいって、人は言うけれど、本来人生は悲しいものじゃないかな。そして、それを乗り越えて乗り越えて、生きてゆくのだと思う。明日はきっといいことがあるだろう、明るい日と書くから。これは俺の自己流格言だが、人は何事も一歩一歩、時計の針のようにあせらず、ゆっくりと歩いてゆけばいいんだ。明るくブライトに。笑顔は人生の最大の武器であるから」

「ところで、徹さん、新しいショートショートの構想はできているんですか?」

「あァ、王子と青かな」

「面白そうね」檸檬は昔を回想しながら言った。

 徹の思考はなぜか、青が青春の苦しみに結びつかない。

 フレッシュな青春の輝きを連想した。

 まァ、それはそんなに重要なことではない。心に常にオレンジ色の太陽を持ち続けることだ。

 

 

ショートショート 檸檬とブルー王子

 

 檸檬は高校二年生。

彼氏、高野進も同級生で、結構学校で有名人である。

ブルーのメガネのフレームは彼のトレードマーク。

みんなから、Mr.ブルーまたはブルー王子と呼ばれている。

進は時々、檸檬に自己中心的な人生論を語る。

「俺、人生って、よくわからないけれど、迷い続けてこそ人生なんだと思う。『青』って、もがき苦しみ、必死で何かを求める色なんだ」

「まるで、ピカソの青の時代ね。親友の自殺がきっかけに絵が青一色になったという」

「檸檬は俺の心を理解してくれている。今度、檸檬に書道を習おうかな。書の心は何だろう。一心不乱かな」と進む。

「私には書の心はわからない。ただ好きなだけ。過去の歴史に興味がある。甲骨文字、金文、楷書。約三千年前の人達は、一体何を考えていたのだろう」

「今日の檸檬は熱く語るね。昔の人達は、生きるだけで精一杯だったと思う。例えば、農業をするだけで一日が終わり、余暇なんてなかったと思う。俺達はなんだかんだといっても恵まれているよ」

そうかな、檸檬は思った。

心が豊かな昔の偉人たちがたくさんいたのでは。

孔子とか老子とか孟子とか。

まァ、これらの人達は偉大過ぎるか。

学校の授業が終わり、帰宅中にとりとめのない会話をする二人。

檸檬の夢は大学に入って、さらに書を学び極めることか。

進の夢はプロのサッカー選手になること。

大人になるって、どういうこと。

成人式を挙げると何が変わる。

自由の幅が広がって、視野もさらに広がるの。

責任が重くのしかかるの。

時には、汚くならなくてはならないの。

人の為の嘘ならいいけれど。

愛する人を守る強さがいるの。

当然だよね。

独りきりになりたくなるの。

二人のいいところは、お互いにいつまでもいたいところ。

信じあえるから。

高校時代が終わっても。

「俺は今、暗号を考えているんだ」

「暗号?」

「例えば、『謎の四文字』的な」

「どんな、どんな」檸檬は目をキラキラさせる。

「いや、全然たいしたことないんだ。俺の頭脳だからね。まず、檸檬が夕歩いていると、男が倒れていて、檸檬が駆け寄る」

「なに、なに、推理小説? サスペンス?」

「男の左手には紙切れがあり、生きもたえだえに、檸檬に死ぬ間際に、内角(ないかく)という。紙には三角形が書かれており、それとは別に丸い空欄が四つ〇〇〇〇あった」

「ふーん、三角形の内角の和は180度ね」

「そこでだ、檸檬の頭の中では、東野圭吾のガリレオみたいに色んな数式が駆け巡り、今日学校で習った、数学の弧度法のラジアン(rad)がひらめくんだ。弧度法で180度は何を意味する?」

「180度? あっ、πradだ」

「そう、いきなりひらめいた檸檬は、無意識にいつも携帯している書ける筆で、空欄〇〇〇〇にπradと書き込んだ。すると・・・・・・・・」

「すると・・・・・・」

「雷鳴がとどろき天から、ブルーの雨がザーザーと降りだして、これがホントのピカソの『青の時代』、・・・・・・・・・・・・なーんてね」

「・・・・・・・・・・・・・さぶー、逆だわ。180度のホントの意味は『逆』って意味よ。この話すべてが逆よ」

今のところ、まだまだ暗号を作れない進。

でも、その話を内心、温かく聞いてあげる檸檬。

まだ進の話は終わっていない。

「時代をさかのぼれば過去に行ける。歴史を得ることができる。故きを温ねて新しきを知る。過去の事実を研究し、そこから新しい知識や見解をひらく。ということで、いいんじゃないか」

「なんかよくわからないけれど、わかったことにしてあげる。もがき苦しんで、大きくなーれ、進の青の時代よ。ブルー王子よ」

「あァ、俺は、じきにピカソのように『バラ色の時代』を迎えるさ。ゴッホも配色が青色と黄色が多いし」

檸檬は心の中で噴き出した。よくわからんなー。

でも、時々よくわからんこの男のことが、好きで好きでたまらないのである。

あと十年、いや五年、いや一年後には、今日のこの出来事も二人にとって懐かしい懐かしい過去になっているのだ。過去というタイムマシンは約三千年前にも行ける。どんな苦しい時も昔の人々の叡智をいただいて檸檬と進は愛の二人三脚で生きてゆけるのだ。