檸檬の甘い時

 

俺は一体、どうしたんだろ、時に吸い込まれて、

「けっ・・・・・・」

 一瞬、結婚してくれと言いそうになった。

「今何て言おうとしたの?」

と檸檬は聞く。

「ソメイヨシノのように綺麗だよと言ったのさ」

と俺は誤魔化した。

 うーんと檸檬は苦笑い。

「気にいらないか?」

「桜の花は散るのが早いからね」

 檸檬は本音を言った。

 俺は檸檬が桜の花をあまり気に入ってないことを知った。

俺が透という名前が嫌いなように。

誰かに俺のすべてを見透かされているように感じる時がある。

俺の心が透明に透けて見える。

「檸檬が桜の花をあまり好きじゃないように、実は俺も自分の名前が好きじゃないんだ」

「えっ、透さんが。いい名前じゃない」

「誰かに俺の心の中を見られているように感じる時があるんだ。透明にね。心の中は、誰だって見られたくないさ」

「それは、そうね。誰しも自分の心の中は他人に知られたくないね」

「その心の知らない者同士が、なんらかのふれあいで、なんらかのアクションで、親密になったり、友情をつちかったり、ひいては愛し合うようになる。なあ、檸檬?」

「それ透さんの、いつもの、からかい?  でも、そうね、心を知らないからこそ、お互いに探り合い、求め合うんだと思う。いつでも、みんな同じスタートに立っているのね」

「でも、時に俺の心をわかって欲しい時もあるよな。どういうんだろう、苦しくて悲しくて、助けて欲しい時がある。やっぱり、人間だもんな。どんなに強い人間でも、どんなに立派な人間でも、一人では生き抜くことはできないと思うんだ。でも、ほんのちょっとの微笑みが、その現状を救ってくれたりする。例えば、それが檸檬だったりする」

「いつもの冗談ですか。でも、嬉しいな。いけない、いけない。そういえば、小学五年生の時、読んだ児童文学で『少女パレアナ』だったかな、不幸に感じる時に対処できる方法が書いていました。とても楽しく素敵な本でした」

「ふーん、どんな対処方法が書いていたの?」

「それは、透さんも読んでみてください。きっと、心が朗らかになると思いますよ」

「・・・・・・わかった、じゃあ、そうするか。俺の知り合いの不幸対処方法は、今までの人生においての、一番つらい時を思い出すのだそうだ」

「で、思い出して、どうするんですか?」

「俺(彼)は、あの時の、あの局面のあんな苦しくて、つらい時でさえ、乗り越えてきたんだ。そんな乗り越えた自分をメチャクチャ褒めるんだそうだ。ただひたすら、お前は凄い、偉いって。そしたら、自然と元気が出てくるらしい。それが、彼の悲しみ対処方法らしい。実は、俺も真似して、実際に使ってみたことがある」

「透さん、使ってみて、どうでした?」

「それが、ホントに効果あったよ。そして、思ったんだ。心って、ほんのちょっとのことで、あっちや、こっちに弾むボールみたいなものなので、大切に大切にしないといけないなと。誤解とか嫉妬とか色々あるし、夢とか希望とか躍動するわくわくする気持ちもある」

「ふふっ」と檸檬は笑った。

「どうした、檸檬?」

「いや、二人で、マジに語ってますね」

「そうだな。で、どうなんだ、檸檬?」

「何がですか?」

「いや、なんでもないよ。ところで、何か、俺に聞きたいことはないか?」

「そうですね、不幸の話は、もういいですから、透さんが、一番楽しい時は、いつですか?」

「うっ、・・・・・・・」

「透さん、どうかしました?」

「・・・・・・・・・それを、俺に言わす気か。俺が一番楽しい時は、檸檬と・・・・・」

「ところで、いきなりですが、吸血鬼がですね・・・・・」

「なんだ、吸血鬼がどうした? 何かのホラー映画か?」

「いいえ、謎々です。前から、透さんに言いたくて・・・・・・・」

「わかった、吸血鬼がどうした?」

「吸血鬼がですね、赤い血と間違えて、青い血を吸いました」

「青い血を吸った?」

「さて、なんて、言ったでしょうか?」

「・・・・・・・青い血か。うーん、・・・・・・・」

「時間切れです。あー、おいち(あー、おいしい)」

「・・・・・・・・・・」

「あら、透さん、不正解なのに、顔がドヤ顔ですよ」

「白状するよ。俺は檸檬とこうして、いっしょにいる時が一番楽しいんだ」

「なーんだ、では檸檬も白状します。檸檬も透先輩と一緒にいるときが、一番楽しいです。だって、心から愛しているんだもん」俺はほっぺたをつねるべきか、いや、ここは吸血鬼に心から心から、感謝すべきなのだと思った。