つれづれファイブ(Ⅴ)

 

シルバーウィークの旅の帰り高速のあるパーキングエリアで、赤ちゃん連れの男性が木の大きな丸いベンチに座っていた。俺とオフクロもベンチの反対に座っていた。何を思ったか赤ちゃんにオフクロはベロベロバァーと声を出さない色んな仕草をし始めた。父親はスマホをしきりにいじっている。ホントにかわいい赤ちゃんだ。俺もオフクロみたいにベロベロバァー。すると赤ちゃんはオフクロを見てニコニコした。父親はまったく気づいていない。知らない家族同士。でも、父親はスマホで赤ちゃんの画像を見てる? 俺達はベロベロバァー。赤ちゃんはニコニコ。みんな一つに繋がっている? 俺はこの一期一会がなぜかたまらなく嬉しかった。

 

モデルのような金髪で青い目の女性が俺に接触してきた。俺はこれまで、何人もの女性を落としてきたが、反対に落とされたのは初めてだ。激しい夜を過ごし、夜明けのコーヒーを二人で飲んだ。そして、急に俺の前から消えた。
 俺のコーヒーコースターの裏に赤いルージュで、『ゴリラ12を殺せ』と書いてあった。彼女のコースターには『リリアン』と書かれてあった。俺はスナイパー。ロンリーバーン。ゴリラ12は恐るべき殺し屋。リリアンについて、調べたら父親をゴリラ12に殺されていた。

復讐か。俺も名の知れたスナイパーだが、ゴリラ12は凄すぎる。報酬はリリアンの体であった。悪くない話だ。一か八か、俺の悪運に賭けてみるか。その夜、俺はゴリラ12を追いかけていた。ゴリラ12は、振り向きざまに、ワルサーP39を俺に5連発! 俺は短い一生を終えるとともに、夢から覚めた。ベッドには、幸せそうにリリアンが眠っていた。

 

俺の愛は渡したぜ
君の愛は貰ったぜ
俺達は愛し合い
ハッピーエンド
いえ、いえ……
なぜなら俺はA国のスパイ
なぜなら君はB国のスパイ
お互い敵同士
なんて、そんな映画あったよね……

 

俺は一本のギターに魅せられて衝動買いをした。前からギターに興味があった。家に帰ってギターをいじる。2、3日後に気がついた。ギターの裏に山崎まさよしのステッカーが貼ってあった。

友達に言うと写真を送信しろって言われたっけ。誰もがきっと興味をそそるよな。ギターケースの中からピックが2つ出てきた。1つには奥田民生のネームが入っていて、1つはカッコいい黄色のピック。俺は前の持ち主のことを思った。色んな思いが秘められていた。
 そして、その人は今………。夢は諦めたのか、それとも希望とともに新しいギターを買ったのか。彼(彼女)は今何をしているんだろう。俺は半年ぐらいギター教室に通い相変わらず飽き性ですぐ習い事を止めた。今は部屋の片隅のオブジェのギターを見てやはり考える。今、彼(彼女)の中の山崎まさよしと奥田民生はどこで何をしている?

 

何事も失敗しないとわからない。だけど、失敗にもランクがある。人はなぜキノコを食べているのだろう。毒キノコを食べて命を落とすかもしれないのに。俺達の食卓に置かれている食材すべてにおいてしかり。昔、昔、先人達が命を賭けたものばかりだ。

失敗にもランクがある。命というランクが。何か怖いなあ。でも、そうやって人は生きてきた。食べ物ばかりじゃない。すべてのものに対して試しは行われてきた。そして、今の世界が成り立っている。

医学における軽い試み重い試み。使える薬使えない薬。マウスによる数々の実験。人体による臨床医学。新たなる手術の試み。色々な未知に挑む人々。命を落とすかもしれないのに。そう、すべては、尊い命を懸けた。

それは生きるため。それはこの世に生き残るため。食べられるものと食べられないもの。

人はなぜキノコを食べているのだろう。毒キノコを食べて命を落とすかもしれないのに。それは生きるため。それはこの世に生き残るため生き続けるため。何事も失敗しないとわからない。

 

俺が見た光景は夕焼けで鉄の金網に腰掛けて、赤トンボが飛んでいて、黄昏でまるで時が止まったかのようで、対面する工場の煙突からは、風の流れを教えてくれかのように煙がプカプカ白く空を染めていた。
 一度、変わったことがあったなァ。ある夏の日俺が小学校四、五年で友達と遊んでいると、見も知らないオジサンに声をかけられた。カバンを持ってくれとのこと。見るとオジサンは汗だくで、重そうなカバンを三つ持っていた。
 その頃犯罪等の関係で学校から知らない人について行くなと通知があり、俺達は迷ったがその人のカバンを持っていっしょに短く長い(?)距離を歩いた。しばらくして、「ありがとう」と言って、三人に当時の百円硬貨をそれぞれにくれた。そして、オジサンはとぼとぼと重たいカバンを持ち引き続き歩いて行った。
 俺達はしばらくオジサンを見て、振り返り振り返り家に戻って行った。なぜか、あの時のことを思い出す。あれから、どうしたのかな。今となっては、もう、わからない。せめて、もう少し、カバンを持って歩いてあげればよかった。赤トンボのあの場所には色々な思い出が………。
オジサンやあの仲間とは会うことは二度とない。赤トンボの光景にはたまに会う。黄昏て黄昏て、暑かっただろうなァ、重たかっただろうなァ。