マジシャン

 

俺はマジシャン。満月の日に一度だけマジックが使える。

現在、貧しい下宿住まいの大学三年生。

手元には一万円。これで後一ヶ月、生活しなければならない。ふぅー。ため息が出た。九万円は足りないな。

色々と生活費がかかるもんな。実家には頼ることはできない。実家は実家で暮らし、大変だもんな。

バイトは首になったばかり。俺は人間関係、付き合いに難がある。むしょうに孤独になりたい時がある。

それに加えて、放浪癖もある。そう語れば、奇才、天才系かと思う人がいるかもしれないが、大学の成績は最低線である。

いわゆる何のとりえもない男である。ただ博打は大好きだ。ボートに競馬、競輪、パチンコ、賭けマージャン。

今日も博打で金策に走ろうと思っている。

俺は布団から出て、起き上がり、オンボロ下宿のシャワーを浴びた。

シャワー室を出て、素早くラフなカッコウに着替えた。外に出ると真夏の太陽がさんさんと照っていた。

実家のある大阪の夏は暑いと幼い頃から思っていたが、ここ広島の夏も、かなり暑い。もう額から汗が流れ出した。

急に別れた大阪の彼女のことを思った。

やはり、離れ離れになるとダメだな。遠距離恋愛を、ヨロシクやっている恋人達が羨ましい。

そろそろ、俺も大学で新しい彼女を作らないとな。

孤独、放浪癖の男にも、女は必要なのだ。この世は男と女から成り立っているのだ。

さーて、どこへ行こうか?そうだ、今日の新聞のチラシに入っていたパチンコ店にでも行ってみるか。

俺は自分の博才を常に信じている。

確か『ジャッカル』という名のパチンコ店だったな。ひと勝負『ジャッカル』でしてみるか。

『ジャッカル』といえば、フレデリック・フォーサイス作の『ジャッカルの日』は、小説でも映画でも、面白かったな。

 波乱万丈の一生に憧れる。でも、最後に失敗してはダメだ。『ジャッカル』でひと稼ぎしたら、新しいバイト先を探さないと。

 どーも、居酒屋とか喫茶店とか接客業は苦手だ。『笑顔』とか『元気』とかというヤツが苦手なのだ。

 といって、家庭教師ができる能力もない。やはり、肉体労働か?でも、虚弱体質なのだ。さてさて、イエローブックでも買うか。

 あーあ、イケメンなら、どこかの女のヒモにでもなるのにな。つくづく最低の男よ、俺って奴は。

 ふーっ、やっと着いたぜ、『ジャッカル』。そうか、パチンコ店のアルバイトはどうかなぁ。案外、向いているかもな。

 俺は自動ドアから、『ジャッカル』に入った。凄い人。凄い音。人を掻き分けて、掻き分けて奥に行った。

 すでに、満員。空いている台はない。俺は両替機の前に立ち、財布から全財産の一万円札を取り出した。

 一万円札に『強い幸せの願い』を込めて、両替機の上部に挿入した。両替機の下から十枚の札が出てきた。

 千円札が十枚、いや違う、なんと一万円札が十枚出てきた。まいどあり。

俺はマジシャン。満月の日に一度だけマジックが使える。