生きているから悩むんだ
オヤジと就職希望会社面接用のスーツを
デパートに買いに行った若き日
二人でぶらりぶらりと見て回る
オヤジが「これなんか、どう」と俺に言う
俺はオヤジが手にした紺色のスーツの
値札を見てビックリした
かなりの高額であった
今まで学生の時代、眼鏡を買ってもらった時など
必ず一番安い品を勧めていたのに
俺の就職に対するオヤジの意気込みが伝わってきた
あれから……………
オヤジはもう他界し、俺はあの紺色のスーツで
オヤジのおかげで今の会社に就職できた
今も勤めている…………
もう、あの紺色のスーツは着れない体型だが
いつでも、心は紺色のスーツを着ているよ、オヤジ、ありがとう!
たまに朝や夜に蜘蛛を見る
いつの頃からか
輪廻の考えが浮かび
亡きオヤジの化身と思えたりする
俺はしばらく蜘蛛を眺め
「さよなら」と言って明日に向かって歩き出す
そして、その明日の中でオフクロに
「何十年生きて、『これだ!』って感じるものがあるのか?」
と問ってみる
「毎日の日々が目に見えない『これだ!』の連続だよ、大切だよ」
「若くても? 年でも?」
「十代でも九十代でもね」
「どっち偉い?」
「決められないよ、それにどんな職業でもね。一体何が知りたいの」
「うーん、今頃すべてが、わからなくなってきた。悩んじゃう」
「そう、生きてこそ、色々と不安に悩むのさ、生きているから悩むんだ」