夫婦
通勤にて、最寄りの駅へ行く途中で、チャリンチャリンと一台の自転車が徒歩の俺を追い抜いた。
自転車には、スマートなOLが乗っていた。
すぐ先の自転車置き場で自転車を止めた。
その時、振り向きざまに顔が見えた。綺麗な女性だった。
そして、ファッションがとてもオシャレだ。
俺は思わず見とれてしまった。俺は早歩きして彼女を追い越そうとしたが無理だった。
歩くのが速い、いかにも、健康そうだ。
彼女のスニーカーとカラフルな靴下が印象的であった。最寄りの駅は、二階建てになっており、階段でもエレベーターでも行けた。
俺達はエレベーターで二階に上がった。
エレベーターを出る時、先に乗った彼女はボタンを押し続け、俺を先に出してくれた。
俺は「ありがとう」と言ってエレベーターを出た。
これは脈ありか?なぜか俺達は偶然か自然か、不思議と接近してかなりくっついていた。勿論、会話はない。なぜか、胸がドキドキしていた。
同じ上りで同じホームに俺達は立っていた。
彼女は髪を後ろにとめていたのだが、何を思ったのか急に後ろにとめていた輪ゴムを取り、髪を前にもってきた。美人がさらに美人になった。
五分後に電車が到着したが、凄い人で満員だった。
残念ながら俺達は、離れ離れになっていた。それから三十分、とても苦しかった。
ずっと立ちっぱなしで、電車は揺れるし、三つの駅に停車したが人はさらに増えるばかりだった。だが俺は浮かれていた。
彼女のことをずっと考えていた。彼女と結婚できないだろうか?あの美人でオシャレな彼女と。
まさに理想の娘だ。これは勘だが性格も良さそうだ。
彼女はもう電車を降りただろうか。眩しかった。垢抜けしていた。
本当にあんな妻が欲しい。明日また会えるだろうか。俺の空想は続く。
しばらくすると、広島駅の三番ホームに着いた。俺はのんきに階段を上り、まわりを見渡した。彼女の姿はどこにもなかった。明日に賭けるか、一目惚れの娘よ。
俺は急にトイレに行きたくなった。一番ホームの男子トイレに小走りで入った。すでに小便トイレはつまっており、俺は並んだ。
奥を見ると老夫婦がトイレボックスの前で立っていた。年を取った、見るからに弱々しい妻は、とても苦しそうだった。旦那さんであろう男性がぎゅっと妻の手を握っていた。彼が妻を守るように男子トイレに連れてきたのがわかった。だが彼は妻を連れて男子トイレを出て行った。どうするのだろう?俺は小便をしながら考えていたら、再び二人が戻ってきた。
そうか、やはり、女子トイレがいっぱいだったんだな。
俺は、なんとかならないかと思いつつもトイレを出た。
そして、ゆっくりとぼとぼ複雑な気持ちで改札口の方へ向かって行った。
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しばらくして、俺はバスに乗りついでいた。
そして、今朝の美人のお姉さんのことを思った。あの若々しい健康そうで生き生きとしたOL。
俺はまた勝手な空想をしていた。
たとえ、俺達が俺の希望通り結婚できたとしても、誰にも言えることであるが、年老いてゆく。二人の将来がバラ色とは限らない。
当たり前の話であるが。お互い元気で眩しい時は、ほんの一時かもしれない。
年とともに病弱になり衰えてゆくのだ。あんなに健康そうな彼女も年老いてゆく。
たえまなく流れる時の中で、俺は彼女を守れるのか?もしかしたら彼女に守ってもらっているかもしれない。
二人とも年老いてゆくんだ。なぜ、こんなことを考えるのだろう。
ブルーな気持ちが心の中をしめていた。
頭の中が曇っていた。あのトイレの老夫婦のことが忘れられない。俺達二人とあのトイレで出会った老夫婦がオーバーラップした。あの老夫婦は一体どうなったのだろう。
あれから俺は胸のわだかまりが取れないでいた。本当にあの二人は困っていた。あの時、確かにとても困っていたように見受けられた。
ならばなぜ、俺は奥のトイレボックスに行って、ノックして、中の人に外から訳を話し早く出てもらうように頼まなかったのか。
あるいは、激しく強くノックして、困っているんだと大声で叫び早く交代してもらうように頼まなかったのか。実はあの時、そういう考えが頭に浮かんだのだ。でも、俺はしなかった。俺は出来なかったのだ。なぜだろう、俺は人目を気にしたのか?俺は自分が情けなかった。あの時の夫が妻を守るようにぎゅっと握っていた手が目に焼きついて忘れられなかった。生きるって何だろう。バスを降りて歩きながら、なぜかそんなことを思った。人はオギャアと家族の期待を一心に受けてこの世に生まれ、なぜその人生の最後に病気等で苦しんで死んでゆかなければならないのか。こんなことを考えるのは俺だけであろうか。
人生の最後だから、生をまっとうして、喜んで死んでゆく、輝いて死んでゆく、それが理想ではないか。それが本来の姿ではないか。俺はそう考えるのであった。なぜか、そんなことを考えていたら会社に着いた。今朝は色々なことを考えた。人生の謎は解けず相変わらず気持ちはブルーであった。生の喜びと死の闇と。