皿うどんに御用心
俺は職場にいた。ごく普通のサラリーマンである。今日は何だか体調が悪い。
昼ご飯を食べたあたりから、気分が悪くなった。ちょっと食べ過ぎなのかな。
週末、江田島の牡蠣マラソンに出て、牡蠣を食べ過ぎたか?
ビールに牡蠣、ホントに最高だった。
三時過ぎに仕事で使うパソコン用トナーカートリッジがカラになり、新しいのと交換しようとした。
だが、簡単な作業なのに、なかなかはかどらなかった。
古いカートリッジをプリンターから取り出した時、両手が震え出し、震えながら新しいカートリッジを袋から出し交換した。
いやな予感がした。誰も気づいていない。誰も助けてくれない。
息がハアハアとし、顔が軽いひきつけを起こした。たぶん、顔は白くなっているはずだ。
いつか同様な状態になったことがある。
あの時はJRで家に帰っている時、急に顔にひきつけを起こし、苦しくなり携帯電話でオフクロに電話して家の近くの駅まで車で迎えにきてもらった。
オフクロは俺を見て「どしたの、顔が真っ白よ」と言った。
地元の救急病院へ連絡すると、急救車でもいいから来いと言われた。流石に、急救車は止めてオフクロに車で連れて行ってもらった。
病院は、すぐに診てくれた。しかし、原因がわからなかった。
俺は苦しくなって何度も呻き出した。
「苦しいよー」
「助けてー」
「死ぬー」
「さちこー」
「あいこー」
「みわー」
もう、なんのこっちゃわからない。
俺はなりふりかまわずわめいた。
「見苦しいよ、しっかりしなさい!」とオフクロ。
オフクロにしかられるなんて、何年振りか?
俺は、必死に苦しみを我慢した。医者は首をひねった。原因がわからない。
「うーん、もしかしたら、ただの便秘かもしれない」と医師は言った。
すぐ浣腸をした。しばらくすると大量の便が出て、身体の症状が治まった。
やはり、医師の言った通り、原因は便秘だった。便秘で救急病院か。
医師もビックリ!
俺もビックリ!
オフクロもビックリ!
三人そろって度ビックリ!
俺は、その時のことを思い出していた。俺は、丁度持っていた便秘薬を飲んだ。
そして、昨日の出来事が思い出された。
昨日、俺は仕事を終え、家に帰る途中、あるデパートに向かった。デパートの九階で九州物産展をやっているのだ。
九階に行くと香ばしいにおいがぷんぷんしていた。俺は、すぐ高千穂のソフトクリームを買って食べた。あまりに美味しいので2本食べた。
そして、色々と迷って物色していた。迷いに迷った。久し振りの九州物産展だ。
やはり中華料理を食べなければ!とラーメン店に入った。あれも食べたいこれも食べたい。結局、久し振りに皿うどんを食べようと決めた。店員に皿うどんの種類を聞いた。
「ただの皿うどんと皿うどんファミリイがあります」
店員は答えた。なんだ、二種類だけか。
俺は、ファミリイというのが食べたくなり食券を買った。かなり長い時間待った。
そして、注文したファミリイがでてきた。俺は唖然とした。
これにはビックリした。四人前くらいの皿うどんがでてきた。なるほどファミリイだ。
俺は納得する暇はなかった。これを食べなければならないのだ。
背筋にひやりと冷たいものが走った。背水の陣だ。絶体絶命だ。四面楚歌だ。
俺の日本語あっている?うううん、たぶん、間違っている!
あァ、すべての時間よ、プレイバック、しかし時間は戻らない。時すでに遅し。
ファミリイと間違えて頼んだばっかりにとんでもないことになった。
これから自分の尻は自分でふかなくてはならない。
何かが始まったのだ、もう逃げられない。
俺は、頭の中が真っ白の中、水を何杯もおかわりし、狂ったように皿うどんを食べ続けた。
自分でも信じられなかったが、なんとか皿うどんを食べ、俺は逃げるようにしてラーメン店を去って行った。
一瞬にも何時間にも思えた。これが昨日の出来事だ。
昨日の記憶をたどっていたら、便秘薬がきいてきたのか、俺はトイレに駆け込んだ。
トイレを独占した。まさにトイレジャック。
仕事を終え帰る頃には、俺は元気になっていた。やったー!元気になったぞ!今日も高千穂のソフトクリームを2本食べようか。
皿うどんは『ただの皿うどん』にして。ホント、どこまでも、懲りない男。
どこまでが冗談で、どこまでが本当の物語? あれは本当は、いつの頃の話か、皿うどん。
ホント言うとあれから皿うどんを食べていないよ。流石の俺でもこわいよね。 饅頭がこわいという落語があるらしいが、俺は皿うどんがこわい。