「お酒もまったく飲んでないのに」

「本当にホント、今日で最後の同伴なんだよね」

「そんなの透さんらしくない」

「じゃあ、俺のセリフを聞いてくれ」

「いいわよ、なあに?」

 俺はゴホンと咳払いした。

「俺は君のリチャード・ギアにはなれないけれど、君は俺のジュリア・ロバーツさ」

と俺は言った。

「何、それ?」

「昔、映画『プリティ・ウーマン』を見た時、冗談で浮かんだフレーズさ。ちょっと思い出したよ」

「それって、かなり古い映画じゃない。レンタルビデオで観たことがあるような、ないような・・・・・・・・・」

「そうだよ、かなり古い映画さ。でも結構面白いぜ。名作だよ。時間が取れたら、ぜひ観てみろよ。音楽もかなり売れたな」

「ふーん、こんなに透さんが映画のことを話すは初めてね」

 桜は微笑む。

「じゃあ、今日の話は、初めてシリーズにしょうか。十年前、俺が二十九歳の時・・・・・・・・・」

「何があったの?」

「いや、暗い話だから止めよう」

「一端、口に出したんだから言ってよ。暗い話は慣れているわ」

「うん、俺が二十九歳の時、オヤジが死んだのさ。心筋梗塞で。その頃俺は、今もかわらないが、毎晩のように飲み歩き、金をバラマキ夜遅く帰っていた。さすがにオヤジも、俺の乱れた生活を見かねて毎日説教するようになった。その日も、夜中の二時に帰ってガンガンとオヤジに説教された。そして、翌朝いつものように出勤した。ところが午後五時頃、会社に家族から電話があった。オヤジが危篤だと。病院に着いたら、すでに心筋梗塞で死んでいた。・・・・・・・・・・・。オフクロに激怒されたよ、おまえが殺したんだと」

「・・・・・・・・・・・・」

 桜は過去の出来事だが、その時の俺の心中を思って、言葉が出てこなかったみたいだ。

「ごめんなさい。でも、透さんのせいじゃないわ」

 桜はしんみりと口を開いた。

「いや、こちらこそラストなのに、しんきくさい話をして悪かったな」

「なんだか、透さんが近くに感じる」

「俺が近くに?」

「あまり身内のこと、話さないじゃない」

「桜だって」

「そうね。お互い聞かなかっただけか。私の両親は健在よ。母は父の転勤先の大阪で、いっしょに暮らしている。会うのは年に一回くらいかな」

「ふーん、淋しくないのか」

「最初わね。今は自由気ままよ」

「逞しいんだね」

「そうでもないわ。時には、やっぱり淋しいな。人間だもの。悲しいビデオを観ては泣き、また同じ観ては泣きって繰り返して」

「変わっているね」

「淋しい時の桜流一気泣きよ」

「それで癒されるのか?」

「泣くだけ泣いたら、すっきりするの」

「じゃ、俺も泣くか」

「えっ」

「ん、独り言。独り言」

「もしかして、透さん、淋しいの」

 桜にバレタかと思った。そう、俺は周期的に淋しくなる時があるのだ。俺はそのまま会話を続けた。

「ハハハ、まァ、今は桜と同じ一人暮らしだからな。時に淋しいこともある」

「兄弟とか、いないの」

「いない。オヤジが死んで、立て続けにオフクロがなくなってから天涯孤独さ。まァ、三十九歳じゃあ、珍しくもないけれど」

「そっか、ビデオでも観る」

「うん? あァ、あれか。悲しいビデオを観ては泣き、また同じビデオを観ては泣きの繰り返しか」