「純粋になぜ、この世に生まれてきたのか」などと考えはしないが、不意に何かが起こって死ぬようなことがあっても、悔いがないようにしたい。
つい何度も同じようなことを考えてしまう。五十歳まであとあと約十年。きっとアッという間だろう。なぜか無意識に色々なことを思ってしまう。〔死〕は不意に訪れる。〔女〕は別に無くてもいい。無くてもいいというのは、別に一生結婚しなくてもいいという意味だ。〔女〕は勿論大好きである。
十年一昔か。今頃の若い奴らは三年、いや一年一昔かも。
外は雨、わからないことが多過ぎる。
桜が突然言った。
「私、再来月でキャッツを卒業するの」
あんまり急で、俺は言葉が出なかった。
「まだ他のお客さんには言ってないの。透さんには、言っておこうと思って」
ふふっと俺は照れ笑い。
真っ先に俺に知らせてくれたのか。
「俺なんかより親しいお客さんがもっといるだろう?」
「なぜか透さんには一番最初に言いたくて」
桜の言葉を聞いて、もしかしたらこの娘は少し俺に気があるのかも?と思った。
「そうか」
「どうしたの?」
「いや桜がいなくなったら俺の人生真っ暗だよ」
「大袈裟ね。いろんな所で結構トオルさんがモテているの、知っているわよ」
「あれは、ただからかっただけさ」
「でも、からかわれた女性は?」
「あァ、確かに俺が悪いかもしれない」
真顔で桜は俺を見る。
「寿退社、結婚でもするのか?」
桜は首を横に振った。
「しばらく何もしないで暮らしたい。蓄えは一応あるけど、お金がなくなったら、どこかでアルバイトでもしようと思うの。ちょっと自分を見つめたい。私も透さんといっしょで、人生好き放題やっているから」
へへっと桜ははにかみ笑い。
「これで俺達、お別れかい?」
「そんなこと言わないで」
「ふーん、桜には水商売はあまり向いてなかったのかな」
「それはどうかわからないけど、大学に行きたいな。無理かな」
「桜次第だよ。人間はやろうと思えば、たいていのことはできる」
俺は自分自身に言っていた。そう、自分自身に。もう一度、チャンスがあれば、俺もやり直したい。
「人生、やり直せるかな?」
と桜は呟く。
「何言ってんのさ。今までの人生も素晴らしいし、これからだって素晴らしいに決まっている」
「適当ね」
「ホントさ。現に今、俺の心を癒しているだぜ。一緒にいるだけで。だから俺は毎回となく、こうして桜と同伴しているのさ」
これは本心であった。
「そっかなあ。そうだったら嬉しいな」
「大学行って、偉くなっても無視すんなよ」
「私、そんな女じゃないよ」
「けっ・・・・・・」
一瞬、結婚してくれと言いそうになった。
「今何て言おうとしたの?」
と桜は聞く。