サファイア12 強き奴ら

 

ある祭日の午後、近くの森から出て、しばらく丘で体をトレーニングしていると、赤木大河の前に、一人の女性が現れた。まだ若い。二十歳過ぎといったところか。

赤木大河は、屈伸運動を止め、その女性に近づき言った。

「何か、俺に用ですか」と赤木大河。

「…………私は、ルビーギリスと言います」女性はとても丁寧な言葉で喋り始めた。「私は、先日あなたが殺したルビー11の妹です。あなたは『宝石術』の使い手。『宝石術』と言っていますが、私にとって、それは人を殺す暗殺拳としか思えないのです。サファイア12さん、あなたは暗殺者です。しかし、悲しきことに兄も同じ暗殺者なのでした。そして、私も多少の能力があります。だが、しかし、兄は私にとって血を分けた、たった一人の兄弟なのです。子供の頃、いつも遊んでくれた愛すべき兄でした。両親が早く死に、幼い私を育ててくれました。兄はいつも言っていました。どんなことがあっても、ギリス、おまえを守ってやると。………………。サファイア12さん、あなたには、ここで死んでもらいます。兄を殺したあなたがどうしても許せないのです。だけど、私は、あなたに到底かないません。そこで、ディーン魔国の世界最強という暗殺拳の使い手を巨額のお金と私の身体で雇いました。兄、ルビー11の復讐です」

急にあたりが暗くなり始めた。

気づくと、ルビーギリスの姿が見えない。

かわりに、長身で浅黒い頑強そうな眼光の鋭い男が立っていた。

男の殺気に赤木大河はたじろぐ。

この男がディーン魔国の最強の暗殺者か。

瞬時に戦いが繰り広げられる。

サファイア12は一気に勝負をつけようと、あのルビー11を倒した奥義『瞬時拳五分身』を使う。

ディーン魔国の戦士も、ついてこれまいと、サファイア12はたかをくくっていたが、むしろ、この奥義よりも相手の動きが速いくらいであった。

信じられない、そんなバカな。

サファイア12は唖然とした。

奥義『瞬時拳五分身』と対等以上のスピードで動く化け物がいる。

サファイア12は戦慄を覚えた。

いくら、五分身して、サファイアビームを放っても、見切られて簡単にかわされる。

反対に敵からの鋭い突きや蹴りが的確にサファイア12の体にヒットし始めた。

痛烈に重く、1ヒットごとにダメージを受け、流石のサファイア12もめまいがし、クラクラする。

そのうちに、ディーン魔国の最強戦士にめったうちにされ始めた。立っていられず、とうとう膝をつく。

顔面を何発も強打されて、口が切れ血がしたたり落ちる。

だんだんと意識が遠退いてゆく。

もうダメだ。その時、真後を何ものかに掴まれた。

「しっかりしろ、サファイア12」どこか聞きおぼえのある声。

気づくと、新たなる男が、ディーン魔国の戦士と戦っていた。新たなるこの男の動き、どこかで見たことがある。二人の戦士が延々と戦っている。サファイア12はそれを見ている。一瞬のスキをついて、新たなる男が魔国の戦士に術をかけた。

「ダイヤ縛り」と新たなる男が叫んだ。魔国の戦士の体が大きなダイヤの中に入り、身動きが取れなくなった。「ガラス変換」と続いて新たなる男はダイヤの塊にビームを放つ。そして、ジャンプして、ダイヤの塊からガラスの塊に変換された塊に回し蹴りをした。パキーンと魔国の最強戦士が入ったガラスの塊は粉々に砕け散った。

ディーン魔国の最強戦士はアッという間に塵と化した。

「よぉ!」新しき男は、ニコッとサファイア12に話しかける。

「兄貴、ダイヤの兄貴」とサファイア12。

ダイヤの兄貴とは………。

サファイア12が『師匠』のもとチベットの奥地で修行していた頃の師範だ。

ダイヤモンド7。いつも、兄貴、兄貴と赤木大河は慕っていた。

「だいぶ腕を上げたな。でも、もう少しというところか」

「兄貴がどうして、ここに?」

「なーに、『師匠』が、おまえの苦しそうな顔が何度も夢に出てきて、心配でたまらないので俺に様子を見にゆけとさ。おまえは、いつまで経っても、かわいい弟子さ」

「…………でも、兄貴、俺は組織から追われている身………」

「あァ、それは、対外的にそうなっているだけ。組織から離れたものを対外的にな。だから、おまえは今も『師匠』の弟子なんだぜ」

サファイア12は空を見上げた。ちょっと涙ぐんでいた。こんな弱いサファイア12は久し振りだ。

「まァ、今度は、藍子と二人でイチャイチャした幸せな夢を見させてくれよ。ルビーギリスに気をつけて。じゃあ、またな」兄貴ことダイヤモンド7は一瞬にして消え去った。

兄貴……………。

ふぅー。

この世には、計り知れない強さを持つものが。

仙人デュパン、師範ダイヤモンド7、師匠……………か。

ホント、まだまだだ、赤木大河ことサファイア12はホントにまだまだだ。

でも、今日はなんとなくなく清々しくてホットな風が吹いている。