歩夢の初恋は中学年のときで同じクラスメートの子だった。
その子も綺麗だったけど、一花の微笑んだ笑顔が初恋の子よりも可愛いと思った。

一花にはきっと背の高いカッコいい彼氏がいるんだろうと思った。そして田舎者の自分にはそんなに関心がないだろうな。そんな気がした。

でも、真面目腐った話しかできない、面白くもない自分に可愛い女性がお酌をしてくれることは、スナツクにでも飲みにきているみたいで幸運だと思った。

歩夢は何か話し掛けないと。と思い一花に
「仕事はどんな仕事してるの。」と聞いてみた。
すると一花は
「美容の仕事よ。まだ卵だけど。」
と、にっこり笑った。
歩夢は更に
「髪の毛がとても綺麗だね。」
と、言った。
一花は
「そう見える。私、美容師の先生のカットモデルをしているの。」
歩夢は少しビックリした表情で
「えっ、そうなんだ。カットモデルさんなんだ。すごいね。美容の世界ってとても華やかなところなんだろ。いいね。いやーそれで髪が綺麗なんだ。」
と、歩夢は一花のような華やかな世界に身をおいて、カットモデルをしている人に会ったのは生まれて初めてだったので、とてもラッキーに思えた。

歩夢は一花にいま彼氏がいるのか気になったので酒の力を借りて思いきって聞いてみた。
「一花さんには、彼氏がいるの。」
一花は少しにっこりして
「いないわ。」
「そう。そんなことないと思うな。きっといい人いるんでしょ。」
「いないわよ。」
「嘘だ~、信じられないね。」
と、歩夢は一花が嘘を言っているみたいで、とても信じられなかった。でもまあそれはそれでいいかと納得した。


章雄は調理場で焼肉屋のおかみさんと料理をしていたが、こっちにくる様子がなかった。

少し沈黙の時間があってどうしょうと歩夢は落ち着かなかったが
一花が
「親が帰るみたいだから、もういくね。さようなら。」
と、言って、
「うん、ありがとう。」
と、歩夢は返した。
そして一花は一花の両親と帰っていった。

ほんの少しの時間だったが、名前も聞かずに終わってしまった。でも
歩夢は楽しく過ごせて満足だった。また会って話がしたいと思った。

カウンターの真ん中で飲んでいた二人ずれのおっちゃんの一人が
歩夢に話し掛けてきた。
「あんちゃん。彼女が欲しいと思ったら、一押し二押し三押し、押しの一手だよ。頑張れよ。」
と、言ってアドバイスをしてくれた。

そうなのかな。僕は一花とは釣り合いがとれないなぁ。
今日は白のカッターシャツにベージュの細目のネクタイをし、モスグリーンのダウンのジャケットをその上から着て来たけど、一花さんにはカッコよく見えただろうか。距離感がありすぎる。華やかな世界にいる人が、真面目腐った田舎者のお金もない自分を相手にするはずがないと心の中で思った。