【脱税】


俺が税務署の職員だった頃の話。







90年代の頃だが、田園調布の

ある家へ査察に入った。







すると、玄関で奥さんがじゅずを
ジャラジャラさせつつ、


「悪霊退散、悪霊退散、悪霊退散。」ムキー


と、ひたすらつぶやいている。凝視






この家がある神道系カルト新興宗教
に帰依(きえ)しているのは


調査で知っていたが、

さすがに面食らったし不愉快だった。驚き



税務署員には珍しく短気な同僚Aは、


A「ずいぶんと奥さんは不機嫌ですね」

等と皮肉を言う。



家の主人もふんっ

鼻で笑い、人を食った様な事を言う。







主人「家内が言うには、どうも

本日来る客人が、災いを運ぶとの

夢を見たらしくてね」




家には宗教関係か、まがまがしい
デザインの神棚があるだけで、

他は普通のセレブの家である。






調査を開始するが脱税の証拠が、

どこを探しても見つからない。キョロキョロ



家の主人はニヤついて

余裕しゃくしゃくで頭に来る。







と思った矢先、Aがあっと声を上げた。






そして、調査してない所が一つだけ
あると言った。



A「神棚だ!」







Aが神棚に手をかけようとしたとたん、

ひたすら「悪霊退散」


を叫んでいた奥さんの顔が青ざめ






「地獄へ落ちる地獄へ落ちる」

と騒ぎ始めた。




主人も打って変わって怒り出し、



「やめろやめろ、呪われるぞ、
死にたいのか」







と叫び出す。



俺達は、このあわてようを見て
ビンゴだと興奮した。



Aが神棚を探ると、中から小さな箱が
見つかった。






証拠があったと色めき立つ中、

怒鳴る奥さんと主人をよそ目に箱を開けた。


「うおっ!」びっくり


とAが叫んだ。


何と、中には女の髪の毛と爪、

それから動物の干からびた
目玉らしき物が大量に入っていたのだ。


調査員達もあまりの事にしーんとする。






奥さんが目をおそろしく釣り上げた、

怒りの形相でつぶやいた。






奥さん「だから言ったのだ。キメてる


お前達、もう命はないかもしれないぞ」



Aはぶるぶる震えながら箱を閉めて、
神棚へ戻した。







上司に調査が失敗だった事を電話で

連絡すると、






上司から怒鳴り声が返ってきた。



上司「馬鹿野郎、ムキーだからお前は
詰めが甘いんだよ。

待ってろ、今から俺が行く」


しばらくして上司が来た。






上司は神棚にどすどすと直行して
箱を平然と開け、


箱に手を突っ込み探りだす。


うえっ、よく手が突っ込めるなあ、

と驚いていたら、上司がにやりと笑った。






上司「見ろ、箱は二重底だ」ニヤリ


二重底の箱からは、脱税の証拠で
ある裏帳簿が見つかった。


主人と奥さんの顔が見る見る
真っ青になる。







上司は調査後に言った。



「真に怖いのは霊や呪いじゃない。

人間の欲望と悪意だよ。

人間は金のためなら嘘も付くし
演技だって平然とする。


今回の調査を見ろ。神棚に隠すずるさ、






"呪い"に対する人間の恐怖を

利用した巧妙な手口、真に怖いのは

人間の欲望と悪意だ」






それから、一年以内に箱を触った
Aが自殺し、


上司が交通事故で死亡した。






二人が○んだのは偶然か?


本当に、真に怖いのは、






人間の欲望

悪意だけなのだろうか…………



END