カセットテープ その3 | フライドチキンと海のおと。

カセットテープ その3

「気持ち悪っ」



曲がはじまって数秒で店長は顔をしかめた。


「まあまあ。こっからがいいとこですよ」


O君はそう言ってにやにやした。
画面がなく、曲だけを聴いている時というのは、
人間なぜか一点をじっと見つめてしまう。
僕とO君、そして店長の三人は、
その時プレイヤー内の回転するテープを見ていた。
そうして曲の性質上、
ぼんやりとしながら無念無想の状態になっていた。


僕はすぐに異変に気付いた。
いつの間にか、客がもう一人いる。
カウンターの一番端。
入り口を入ってすぐの席。
つまり、プレイヤーの前の席。
おそらく髪の長い女性。
おそらく白っぽいワンピースのような服。


おそらく、と書いたのにはわけがある。
なぜか、そっちを見ることができないのだ。
僕の眼は、
いや僕達三人の眼はプレイヤーから離れなくなっていた。
もっと言うと、体も動かなかった。
正確には金縛りのように動かなかったのではなく、
体がだるくて動かす気になれなかったのだ。
これはのちに店長もO君も言っていた。
誰かに、何かに、知らないうちに神経を支配されている。
その事実がとてつもなく恐ろしかった。
とはいえ何もできない。
いや、する気になれない。
女はじっと動かない。
テープは回り続けている。
それどころか、
明らかに何度か同じところで勝手にリフレインしている。
もうこのテープが終わることはないんじゃないか。
そして僕達は。
そう思いかけた時、
ばあん、と派手な音を立ててドアが開かれた。


「あれえ。マスター、先客ぅ?」


派手な化粧をした女の子二人が入ってきた。
酔っ払った女の子達は体当たりするようにドアを開けたのだ。


店内に密集していた厚く重い空気は、
その一撃でかき乱された。
心臓が激しく鼓動を打っていた。
気付くと、髪の長い女の姿はどこにもなかった。

あっけにとられる女の子達を尻目に、


「お前らもう変なもん持ってくんな!」


と怒鳴りながら店長は僕達に拳骨をくれた。

そのカセットテープはずっと僕の手元にあったのだが、
ある日ふっとなくなった。
テープを保管していた箱から、
まるでテレポーテーションでもしたみたいに。
歯が抜け落ちたように、ちょうど一本分の幅が空いていた。


もうカセットテープを聴くための設備もうちにはない。
どうやら開放されたようだ。