となりのXさん その3
残念ながら物干しには一枚も服はかかっていない。
というよりも、ベランダには何も物が置かれていない。
僕は湧き上がる好奇心をどうにも押さえられず、
手すりをしっかりと握って安定性を確認すると、
上半身をさらに隣家のベランダに侵入させた。
カーテンは引かれていなかった。
西日に照らされた部屋の中が一気に丸見えになり、
僕はそのさまに息をのんだ。
部屋の中には、家具が一つもなかった。
家具どころか、物が何もない。
本一冊、ペットボトル一本転がっていない。
がらんとしているのだ。
およそ生活臭というものが感じられなかった。
いや。
一つだけあったのだ。壁際に。
我が家に面している方の壁のすぐ前に、
ぼろぼろに錆びたぶら下がり健康器がある。
そしてそこには百キロくらいはありそうな、
牛のものと思しき肉塊がぶら下げられていた。
その肉塊の真ん中辺りに、
A4のレポート用紙がガムテープで貼り付けられていた。
用紙には細い黒のマジックで書かれていた。
「みづえ」と。
<つづく>