寺で見た“それ” その4
槍は子供の手首くらいの太さの鎖でぐるぐる巻きにされていた。
その鎖の先は、太く頑丈そうな木の柱に深々と打ち込まれている。
ぞくりと震えがきた。
柱の、鎖の打ち込まれた辺りに、
無数の細かな亀裂が入っていたのだ。
何かはわからない。
でも明らかにその太い鎖は、
引っ張られたことがあるようだった。
途方もない強い力で。
槍の周り一メートルくらいに、細かなゴミが層になっていた。
最初それは枯れ枝や木の葉に見えた。
僕は目を凝らした。
いや、枯れ枝じゃない。木の葉じゃない。
虫だった。
大小様々な蛾や、
何かよくわからない体節がたくさんある不気味な虫やゲジゲジ。
それら大量の虫の屍骸が五センチくらいの層になって、
槍の周囲に堆積していた。
それは信者のようだった。
僕には虫達が、狂気的な教祖を恋い慕う信者に見えたのだ。
そしてもう一つ、僕を戦慄させたもの。
お札だ。
槍の全体にびっしりと、
経文めいた言葉が書かれたお札が何十枚も貼られていたのだ。
そのほとんどは筆を使い、
行書体のような崩した字で書かれていたので、
幼い僕にはなんと書かれているか全然わからなかった。
ただ二文字だけ、はっきりとわかる漢字があった。
『禁』
という文字。
そして、
『呪』
という文字。
なんだ。なんだこの威圧感。
僕の体中の危険感知物質がアラームを鳴らしていた。
<ココニイテハイケナイ>
そう思った刹那、全身にぶつぶつと鳥肌が立った。
僕は振り返らず、突進するように出口に向かって走った。
光の差す方へがむしゃらに走ると、すぐに外に出た。
安堵感でほとんど泣きそうになっていた。
僕の鬼気迫る表情を見て、
大きな銀杏の木の下でタバコを吸っていた父が変な顔をした。
そしてすぐにやりと笑い、
「寺では悪さすんなよ」
と言った。
僕も顔を変な具合にゆがめ、少しだけ笑った。
それはおそらくとても変な笑い顔だったろうけど、
その時にできる精一杯のつよがりだったのだと思う。