しめじ | フライドチキンと海のおと。

しめじ

変人を自覚している人間に、
なかなか本当の変人はいない、という説がある。


しめじを、房から一本ずつ裂き取るのが趣味だという男がいる。
最近会っていないが、学生時代の古い友人だ。仮にTとしておく。
細いしめじを親指と人差し指でつまみ、
しゅわわと裂く瞬間に性的興奮を感じると、そやつは言う。

僕は一度、
「バナナじゃだめなのか」
と聞いた。Tは真面目な顔で「だめだ」と言った。
「しめじのな、あの白い肢体を裂いて蹂躙するのがたまらんのや」
しめじ、と頭に付けなければまるで性犯罪者の独白である。


一度、Rという男と手を組み、
Tに他愛のないいたずらをしかけてやろうという話になった。
おそらくはモテたことなどないであろうTに、
バレンタインのプレゼントを送りつけたのだ。
もちろん誰か、適当な女の子の名前を包み紙に書いて。
両手で丁度かかえられるくらいの大きいダンボール箱だ。
中にはチョコではなく、しめじをぎっしり詰め込んだ。


バレンタインの次の日、Tは学校に来なかった。


その次の日も来なかった。


「ちょっと毒が効きすぎたか?」


僕とRは心配になり、学校がはねてからTのアパートに寄った。
ノックをした。応えない。


「おい、T。俺達だよ。居るんだろ?」


呼びかけにも無反応だ。
恐る恐るドアノブを回すと、ドアが開いた。
僕とRはいつでも逃げ出せる体勢を取りながら、
ワンルームの部屋の中を覗いた。


すると。

四畳半の真ん中で、Tが胡坐をかいてこっちに背中を向けていた。
そしてTの向こうには、
細く裂かれたしめじが、

胡坐をかいているTと同じくらいの大きさの山になっていた。


僕達が言葉を失っていると、Tがぬうっとこっちを向いた。
顔が真っ白だった。その手の中にあるしめじのように。


「おう。おまえらか」


そうつぶやくと、


「待っとれ。もうすぐ全部裂き終わるよってに」


と言ってTは作業に戻った。
そのあと、Tは一度も顔を上げなかった。


……変人を自覚している人間に、
なかなか本当の変人はいない、という説がある。
Tが自覚していようがいまいが、
誰がなんと言おうとこういうのが変人だ。


「あたしってぇ、みんなにぃ、変わってるねって言われんのぉ」

などとのたまっている自称不思議ちゃんよ。
Tのしめじ臭い爪のアカを煎じて飲むべし。