変装へのあこがれ
変装癖がある。
といっても付け髭をつけたりカツラをかぶったりするようなことではなく、
『人間性を偽る』といったたぐいの変装が好きだ。
たとえば、あえて変なくちぐせをつける。
聞いたことのないイントネーションでしゃべる。
妙なツボで爆笑する。
「え? これって笑うところ?」
「だっ、だってさ、だってペンキのくせにさ、“無色”ってなんだよ?!職務放棄だろ!」
みたいに。
周りにこいつ大丈夫か? という顔をされると、むずむずと気持ちよくなる。
そういえば小学校六年生の時。
僕はサッカーを習っていた。
日曜日、練習場所であるはずのグラウンドに行くと、いつもと顔ぶれが違う。
あれっと思っていると一人の少年(僕もだけど)が僕に近づき、
「? 君さ、前に六年生の練習にいなかった?」
という。
しまった。集合場所を間違って、五年生の練習に合流してしまったのだ。
いまさら
「そういえば私は六年生でした」
と言うのはあまりに恥ずかしい。
そこで僕は、『今日だけ五年生になりきる』ことにした。
なおも
「ねえ、六年生の練習にいなかった?」
と食い下がるこの少年に、
「ああ、あれ。あれは、俺の双子の兄貴なんだ」
と言った。もちろん嘘だ。
「でもそっくりの双子って、ふつう同じ歳じゃないの?」
と食い下がる少年に僕は、
「一年後に生まれるというケースも、まれにある」
と説明した。
少年はあっさり納得した。
そして僕はその日、『双子の兄貴がいる五年生』役を演じ続けた。
練習が終わるとその少年は、
「また来週な」
と言った。背筋がぞくぞく、と震えた。
そのあたりからだろう。違う人格を演じる愉しさに目覚めてしまった。
タクシーに乗った時は、イントネーションを変える。
すると、
「日本語上手ですね」
と言われる。
会社のメンバーに対しても、僕の決定的な性格的特徴について演技をしている。
でもバレると全員が度肝を抜かれ、
以降の仕事にもさしつかえるので、
真実は闇の中に葬っておく。