まぶたがわたしを閉じてから -10ページ目

昨日の夜




仕事の帰り、ばったり高木と出くわした




高木は中学時代からの親友で、東京の会社に就職していたのだが




たまたま今日は、出張のついでに実家へ帰って来ているという




思いがけない再会に懐かしさでいっぱいになった私は




明日も仕事が早いと渋る高木を、無理やり呑みに連れていった




いきつけのダイニングバーで私たちは昔話に花を咲かせたが




ボーナスを貰いたてで少し気が大きくなっていた私は




酒の勢いも手伝い




昔とおなじように、大人しい性格の高木に議論を吹っ掛け、よせばいいのにお説教を始めた




高木はいい奴なのだが、温厚すぎてハッキリ自分の意見を言わないので、時々イライラさせられるのは確かだ




だいたいお前、薄情じゃないか




東京へ行ったきり、連絡のひとつも寄越さずに




おれたちの友情とは電話一本の手間にすら値しないものだったのか、え?




それで親友とはよくぞまぁ、どの口が言ってるんだ、あ?




私は音信不通だった高木をネチネチと言葉責めにし




絡み酒の味を心ゆくまで堪能した




そして、小一時間ばかり経った頃だろうか




私の話にじっと耳を傾けていた高木がおもむろに口を開いた




実はおれも、お前には言っておかねばならないことがある




酒のせいか、高木の目は据わっていた




な、何だよ改まって




おれは高木じゃない




これは私の想定外の発言だった




…は?何言ってんのお前




おれの名前は「たかぎ」じゃないんだ




じゃ、じゃあお前はいったい誰なんだ!田中か?鈴木か?




酔っぱらっているのか高木よ、それとも残業のし過ぎでとうとう頭がイカれちまったか?




酔ってなんかないさ




いいか、よく聞いてくれej




おれの名前は正しくは「たかき」なんだよ、濁点は付かない




…へ?




昔から皆の前では何度も説明してきたんだが、お前だけだよej




卒業するまでとうとうおれの名前を覚えてくれなかったのは!




何だか旗色が悪くなってきた




おれはお前と初めて会った頃から、そう呼ばれることが気になって気になって仕方がなかった




だが今までどうしても言い出せなかった




今日という今日はハッキリと言わせて貰うぞej!




今や攻守ところを変え、形勢は完全に逆転したようである




お前が言う友情とやらは、人の名を覚える労力にすら値しないものだったのか、お?




親友親友と気易く言うが、お前は名前ひとつ覚えようとしないじゃないか!




それで親友とはよくぞまぁ、どの口が言ってるんだ、うん?




ぐぬぬぬぬぬ…




やがて夜は更け




私たちは店を後にし、言葉少なに別れた




しかしまぁ




しばらく会わないうちに高木もずいぶんと成長したもんだ




こんなにも自分の気持ちをハッキリ表せるようになって




親友として私は嬉しい。