まぶたがわたしを閉じてから
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子供の頃、「たま」という名のまっしろな猫を飼っていたが





単調な毛並みに飽きてきたので、ヘアマニキュアで染めたら





まっかっかになってしまった





次の日、救急車がけたたましくサイレンを鳴らし隣家にやって来たので様子を窺うと





呆けてふだんは外に出て来ない隣のお爺さんが





「捨て子じゃ、産まれたての赤ン坊が路地裏に捨てられとる!」と叫んでいた





私が急いで救急隊員を現場の路地へと案内すると





赤い猫が腹を出して寝ていた





しかしジジイの興奮はなお収まらず、口から泡を噴きながら





「う、うちの嫁が不貞の子を!」などと訳の分からないことをまくし立てるので





とうとう「譫妄が激しい」として





自分が呼んだ救急車に乗せられ、病院に連れて行かれる始末





オカンは「アンタのせいや!」と私を叱った





私は「オマエのせいや!」とたまを叱った





たまは「ごろごろ」とのどを鳴らした





また次の日、たまがおかしな声で鳴いているので表に出てみると





案の定ジジイがブルブル震える手でホースを握り締め





「猫が燃えている!」と叫びながら





逃げ惑うたまに向けて猛烈な勢いで放水していた





「な、納屋が、うちの納屋が燃えるッ!」と喚き散らし





「やめてーッ、おじいちゃんやめてーッ!!」と叫ぶ息子の嫁の制止も聞かず





およそ小一時間も水を撒き続けたジジイは





自らの手で新築の家を床上浸水させた挙げ句、さらに消防車まで呼ぼうとしたので





私は慌てて消防署に電話をかけて事情を説明し、騒動を未然に鎮火した





ジジイは赤い猫に興奮しすぎたのか、暫くして卒中を起こし寝たきりになり





結局その年の暮れに死んだ





オカンは「アンタのせいや!」と私を叱った





私は「オマエのせいや!」とたまを叱った





たまは「ごろごろ」とのどを鳴らした





隣家の嫁は葬式でこそ涙を見せていたが





舅の介護から解放され、外へ働きに出るようになると





知らないうちに格好が別人のように派手になり





燃えるような赤い口紅、赤いマニキュアを塗りたくって、家を空けることが多くなった





やがてジジイのたわ言通りに不貞の子を身籠ると





実子のない夫妻はたちまち離縁し、土地は売りに出され





隣家はあっという間に更地になった





少し歳をとったオカンは、大人になった私にもう何も言わなかった





たまも、もういなかった。
















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