能に「天鼓」という曲があります。
昔むかしの中国に、天鼓という、大変優れた鼓打ちの青年がいたが、帝から鼓を召し上げると迫られ、山中に逃げます。
ついに追っ手に捉えられた天鼓は、鼓を取り上げられた上に、水に沈められ、命を奪われます。
取り上げた鼓を打つも、鳴らないことに怒り、帝は、息子の死に消沈している父を呼び出し、鳴らせと命じます。鳴らずば、命はないと脅しながら。
その時、鼓は奇跡的に澄んだ音を響かせます。
子を悼むあまり、死ねば息子に逢えると考えた父の想いと、父を救いたいと願う息子の想いが、時空を越えて呼応するかのように。
その音は、帝の頑なな心をも解き
天鼓親子を赦すと詫びます。
それを聴いた天鼓の霊は、大いに喜び、
天上天下を讃える歌舞を舞うのでした。
今日は9月11日。
アメリカ同時多発テロ事件から9年目を迎える今日。65年前に広島で被爆したピアノが、ニューヨークでコンサートを開くそうです。
8月の強い陽射しをはるかに超えた、恐ろしい熱線、熱風によって、一瞬で焦土と化した広島で、無数の硝子片を受けながらも、生き残ったピアノがあります。
悲しい歴史を身に刻みつつ、逞しく清々しく、今も音楽で、人々に語りかける被爆ピアノは、
アメリカ同時多発テロ事件で、奪われた命を慰めるために、かの地に向かったそうです。
アメリカによって、悲しい運命を背負わされたピアノが、
そのアメリカに、人々を慰めるために渡る。
コンサートを企画されたのは、広島で今も被爆ピアノを守り続ける被爆2世の方と、テロ事件で友人を亡くした日本人の方です。
日本には、まだまだ怒りや悲しみが癒えず、現実に心と体を傷めている方もいらっしゃるでしょう。
その中で、敢えてこの日にニューヨークでコンサートを開きたいと考えたのは、
「かけはしになりたい」との想いからだそうです。
まだ怒りや矛盾を抱えながらも、その先にある未来を変えて行きたいと行動を起こす方の勇気に、
胸揺さ振れる想いがしました。
天鼓と被爆ピアノ
矛盾や人と人の心の隔たりを越えた、音楽を通しての希望の再生を願わずにはいられません。