ジム・ジャームッシュ 「パターソン」 (2016) | It’s not about the ski 遅れて来た天才スキーヤー???、時々駄洒落(笑)、毎日ビール!(爆)

It’s not about the ski 遅れて来た天才スキーヤー???、時々駄洒落(笑)、毎日ビール!(爆)

スキー大好き、ゴルフ、読書、映画、演劇、音楽、絵画、旅行と他の遊びも大好き、元々仕事程々だったが、もっとスキーが真剣にやりたくて、会社辞めちまった爺の大冒険?



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映画の中で、何も特別なことが起こらないことを期待してこの映画を観に行った。そんな映画も珍しい(笑)

チンピラ風のアンちゃんたちが、夜にブルドッグを散歩させている主人公のパターソン(「スター・ウォーズ」でハン・ソロとレイア姫の息子でフォースのダークサイドに堕ちたカイロ・レンを演じているアダム・ドライバー)にちょっと絡んで来たり、パターソン行き付けのバーで失恋に狂った青年エヴェレット(ウィリアム・ジャクソン・ハーパー)が銃を振りかざし出したり、パターソンの運転するバス(そう、主人公パターソンの職業はパターソン市営バスの運転手なのだ)がお客を載せて運行中に突然メカニカル トラブルで動かなくなってしまった等々、何か大事件に発展しそうなことは日によっては起きるのだが、結局それらは大事に至らず、すぐに何事もなかったかの様に日常に収束してしまう。

期待どおり、殆ど何も起こらない映画だったが(笑)、とても美しく面白い映画で大満足した。



この映画は、月曜日から次の月曜日までの、パターソン市の市営バスの運転手パターソンの日常を描いている。

平日パターソンは、妻のローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)に優しくキスをして、6時過ぎに起床、シリアルの朝食を食べた後、市バスの営業所/バス 車庫まで徒歩で通勤する。

バスの発車前に愛用のノートに手書きで詩を書き付ける。そう、パターソンは詩人なのだ、と言ってもそれを世に売り出して詩を書くことを職業としようとか、有名になろうなどという野心はさらさら無い。詩を書くことはあくまでパターソンが極私的、個人的に愛する行為なのだ。

そこへバス 車庫管理責任者のドニー(リズワン・マンジ)がやって来て、パターソンに彼の家庭内の問題やトラブルをひとしきり愚痴っていく。

バスを走らせるパターソンは、運転席から見えるお馴染みの市内の風景に詩人らしい何かを感じ、時々乗客同士の会話を聞いて密かに微笑んでいる。

夕方、勤務が終って家に帰ると美しい妻のローラが、大抵少し変わったことをしている。最初はカーテンを変えるくらいだったが、日が変わると、壁の色も変え始めた。カントリー歌手になりたいので、ギターを買ってくれと言うので、パターソンはその値段に少し驚きながらも買ってあげる。金曜に帰宅したパターソンに妻は買って貰ったギターを早速弾きながら、「線路は続くよ、どこまでも♪」と歌う。土曜にバザールで売るために、カップケーキを金曜の朝から作り溜めたりもする。朝目覚めて妻にいつもの様にキスしようとしたら、彼女はとうに起きて、カップケーキ作りに勤しんでいた(笑)

そんな少し変わった妻だが、パターソンはそれに特に文句を言うことは無く、暖かく見守っている。一回だけローラが夕食に作った野菜のパイだけはお気に召さなかった様だが、それも口に出して言う訳ではなく、アダム・ドライバーの顔の表情の演技で判るのみ。ローラは気づいていない(笑)

妻のローラは、パターソンと違い外交的で積極的に第三者に向かって自分を表現し発信していくタイプなのだ。パターソンにも、ノートに書き貯めた詩を出版会社の編集者に見せる様強く勧める。そんな正反対の性格のパターソンとローラだが、深く愛し合っていて、とても幸せな感じが羨ましい。

さて、夕食を食べて少し休憩した後は、愛犬のブルドッグのマーヴィンの散歩の時間。
マーヴィンとひととおり散歩したら、マーヴィンのリードを店の前に結わいて、途中のバーで1杯のビールを飲むのがパターソンの日課であり、ささやかな楽しみである。
そのバーでも、前述の様に小さな事件があったりもするが、それも大したことにはならない。

このマーヴィンを演じるブルドッグのネリーが人間の役者も顔負けの名演。カンヌ映画祭でパルムドールならぬ、パルムドッグ賞(笑)を受賞したのも頷ける。犬好きの方なら、このマーヴィンを観るだけで、この映画を楽しめると思う。
残念なことに、ネリーはこのパルムドッグ賞受賞前に亡くなってしまったのだそうだが。

しかし、映画の後半では、実はこのブルドッグのマーヴィンが、パターソンが酷くガッカリする様な事態を引き起こしてしまうのだが、それは是非この映画をご覧下さい。



詩人パターソンと、他の詩人とのほのかな交流もこの映画をほんわかした雰囲気にしている。コインランドリーで選択をしながら、ラップで詩を口ずさむ男。バス車庫の前でパターソンに披露する可愛い女の子の詩人。

そして、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ(パターソン市出身で医者の仕事の傍ら多くの詩を書いた詩人)の詩が好きで、わざわざパターソンにやって来たという日本の詩人(永瀬正敏)は、パターソンと話が出来たお礼にと、まっさらなノート帳をパターソンに渡す。登場する時間は5分程だが、この映画でも特に重要な役だ。
映画を観た人がそれぞれ自由に感じれば良いことだが、日本からの詩人は神か天使の様な、そしてノートは創作の悦び、未来への希望の様に私は思った。

何気ない詩人の心を持ったバス運転手の日常。一見大差無い様だが、詩人のパターソンにとっては、その僅かな差、変化が新鮮で詩の題材に満ちていると感じられているに違いないのだ。

そうしたパターソンの日常を細やかに描くこの映画では、カメラワークも敢えて毎日同じ様な構図、色調で撮っていて印象に残る。
例えば、目覚めのパターソン夫婦をベッドの上から撮すアングル、バスを運転するパターソンを右斜めから撮るショット、走るバスのガラスに反射する街、パターソンの自宅から出て来るパターソンとブルドッグのマーヴィンを正面から引き気味に撮るアングル、その犬の散歩を真横からやはり引き気味に撮る構図、妻ローラが「双子を授かる夢を見た」と言った翌日から随所に挿入される、様々な年齢、性別の双子のショット等々。



実はジム・ジャームッシュ監督の映画を観るのは初めてだったのだが、世評高い「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(1984)や「ミステリー・トレイン」(1989)(3つの短編から成る映画で、第1話で永瀬正敏が主演)などは是非とも観なくてはなるまい。

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監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
劇中のパターソン作の詩:ロン・パジェット
劇中引用詩:ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ
キャスト:
パターソン(バス運転手):アダム・ドライバー
ローラ(パターソンの妻):ゴルシフテ・ファラハニ
ドク(バーのマスター):バリー・シャバカ・ヘンリー
エヴェレット(恋に悩む男):ウィリアム・ジャクソン・ハーパー
マリー(エヴェレットが恋する女):チャステン・ハーモン
ドニー(バス車庫管理責任者):リズワン・マンジ
日本からやって来た詩人:永瀬正敏
マーヴィン(ブルドッグ):ネリー

上映時間:1時間58分
ドイツ公開:2016年11月17日
フランス公開:2016年12月21日
米国公開:2016年12月28日
日本公開:2017年8月26日
鑑賞日:2017年9月13日
場所:新宿武蔵野館





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