2014年の「インターステラー」(↑)に続くクリストファー・ノーラン監督、話題の最新作。
【あらすじ】
第二次世界大戦初期の1940年5月26日から6月4日、英国、ベルギー、カナダ、フランスから成る連合軍兵は、フランス北部のダンケルク海岸でドイツ軍に包囲され、撤退を余儀なくされていた。
英国陸軍兵士トミー2等兵 (フィン・ホワイトヘッド)は、ダンケルク市街の戦闘で自身が属する分隊がドイツ軍の銃撃で全滅し、ダンケルクの砂浜に命からがら逃げて来たところ、友軍の兵士を砂浜に埋葬していたギブソン (アイナリン・バーナード)という無口な兵士と出会い、行動を共にする様になる。
ダンケルクに取り残された英国軍兵士の救助のため自身の小型船徴用の国命を受けた民間人のドーソン (マーク・ライランス)は、息子のピーター (トム・グリン=カーニー)、ピーターの知り合いのジョージ(バリー・コーガン)と共に、英国海岸から対岸のフランス ダンケルクに向けて出港する。
英国空軍戦闘機隊のファリア (トム・ハーディ)とコリンズ(ジャック・ロウデン)はスピットファイアを駆り、ダンケルクでの撤退行動を攻撃するドイツ空軍を阻止するためにダンケルクに赴く。
トミー達は、ドイツ空軍の攻撃にさらされながらも、母国英国に帰るべく、わずかな数の救助船に乗ろうと奮闘する。
【感想】
監督自ら、これは戦争映画ではないと言っている。ただ観客に、ダンケルクの海岸から逃げることの擬似体験をさせたかったと。
ある意味スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」と同じく、言葉に寄らない映像体験を試みた実験的映画と言えるかもしれない。
「2001年宇宙の旅」と同じく、セリフが極端に少ない。登場人物がどういう理由でダンケルクに来たのか、居たのか、過去は何をしていたかといった説明的場面やセリフは一切無い。
あらすじに書いた様に、ダンケルク大撤退(軍事上はダイナモ作戦と呼ばれ、実に30万人以上の兵が脱出した)を実話を、この映画は3つのエピソードで描いている。
ダンケルクの「桟橋」から何とか脱出しようとするトミー2等兵らのエピソード、それらの海岸に取り残された英国兵を対岸の英国側から救援に向かうドーソン (マーク・ライランス)らの「海」のエピソード、そしてダンケルクから脱出する将兵をドイツ空軍の攻撃から守るべく出撃した英空軍スピットファイア戦闘機の操縦士2名を描く「空」のエピソードだ。
「桟橋」と「海」と「空」の3つの物語の時間の流れ、一直線ではなく前後して描かれるのだが、字幕等は全く出ないので、映画を観ている途中で観客は「あっ、先程起きたことの前の時点に、時間は戻ったのだな」と気づく仕組みだ。
キリアン・マーフィ演じる英軍士官は「海」のエピソードでドーソンらの小型船に助けられるのだが、その後に「桟橋」のエピソードで船がドイツ軍の攻撃で沈没し海を漂流するトミーを、その士官は救命ボートに乗せようとするが、定員オーバーなので「今乗せている兵隊たちを海岸に送り届けたら、また引き返して救助に来る」と言って去って行くので、あれっと思う。
また、スピットファイア一機が海に不時着水するシーンは「空」のエピソードで先に描かれるが、今度「海」のエピソードに場面が転じると時間が少し前に戻り、ドーソンたちの上空でスピットファイアとドイツ空軍が空中戦を演じて、被弾したスピットファイアが小型船の近くに着水したのを、ドーソンたちが助けに行くことになる。
この時間軸が3つのエピソード間で交錯し絡みあう感じがとても面白い。
初めて観た時は戸惑ったところも多かったので、その意味でももう一回観て、監督・脚本の仕掛けたマジックを確認したいと思う。
クリストファー・ノーラン監督はCGは出来るだけ使わず、実写を好むことでも知られている。
前作「インターステラー」でも、ワームホールやブラックホールのシーンではさすがにCGを使用しているものの、宇宙船のシーンは専ら実物大のセットや模型を使って撮影していたが、今回の「ダンケルク」では、実際の海に船を浮かべ、本物の戦闘機を飛ばして、操縦士役の俳優も飛行機に乗せて撮影しており、リアリズムもここに極まれりである。
実写による美しい場面は多数あるのだが、例えば、ダンケルクの砂浜に不時着せんとするスピットファイア戦闘機の映像などは息を飲む様な美しさだ。
製作:クリストファー・ノーラン、エマ・トーマス
監督・脚本:クリストファー・ノーラン
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
キャスト:
トミー (英国陸軍2等兵):フィン・ホワイトヘッド
ピーター (ドーソンの息子):トム・グリン=カーニー
コリンズ(英国空軍 スピットファイアの操縦士):ジャック・ロウデン
アレックス (英国陸軍高地連隊2等兵):ハリー・スタイルズ
ギブソン (トミーと行動を共にする無口な兵士):アイナリン・バーナード
ヴィナント (英国陸軍大佐):ジェームズ・ダーシー
ジョージ(ドーソンに同行する青年):バリー・コーガン
ボルトン (英国海軍中佐):ケネス・ブラナー
ドーソンに救出される英国兵:キリアン・マーフィ
ドーソン (小型船の船長 ピーターの父):マーク・ライランス
ファリア (英国空軍 スピットファイアの操縦士):トム・ハーディ
英国空軍スピットファイア戦闘機隊 コリンズとファリアの隊長の声:マイケル・ケイン
上映時間:1時間46分
フランス公開:2017年7月19日
オランダ公開:2017年7月20日
米国・英国公開:2017年7月21日
日本公開:2017年9月9日
鑑賞日:2017年9月11日
場所:TOHOシネマズ新宿
No.8708 Day 2960