しばらく経っても雨は止みそうになかった。
限られた時間の中での旅だから
いつまでもここで休んでいるわけにもいかず、
わたしは店を出ることにした。
このまま、また雨に濡れて行こうと思った。
帰りがけにオーナーさんはビニール傘をくれた。
「ごめんなさいね、こんな使い古しの傘で。よかったら使ってください」
「えっ、いいんですか? …でも、この傘はお返しに上がれませんが…」
「いいんですよ、そのまま持って行ってくださいな。
雨が止んでいらなくなったら捨ててくださいね」
オーナーさんの優しい言葉にちょっと目が潤んでしまった。
「ありがとうございます」
と言ってわたしは頭を下げた。使い古しの傘でも本当にありがたかった。
これも何かのご縁と思い、
自分の名刺(ふだん仕事で使っているもの)を差し出し、
「こんど東京に遊びにいらしたらぜひ案内いたします」と言ったら、
オーナーさんは名刺を見て声を上げた。
「まぁ、あなた○○(地名)からいらしてたの?!
わたし、以前は△△町(○○からすぐ近く)で働いていて、
○○のあたりはよく歩いてましたよ。
主人が定年で、長男なので今はこの土地に戻って
住むようになりましたけど。
○○の辺り、なつかしいわー」
ええっ、そうなんですかぁ…と、わたしもビックリした。
もしかしたら以前、わたしとそのオーナーさんはどこかで
すれ違っていた可能性はあるかもしれない。
日本の片隅の小さな村で、
「傘がない」というハプニングから生まれたひとつの出会い。
そして、このとき初めて知った事実がもうひとつある。
店を出る前、目的地までの道順を丁寧に教えてもらったのだが、
やはり目的地とは違う方向に歩いてきていたことが判明した。
もし、道に迷わずそのまま目的地へ向かっていたら
きっとこのお店の前を通ることもなかった。
雨に見舞われ、傘を持たず、道に迷ったからこそ得た「出会い」だった。
人と人との縁って本当に不思議なものだと思った。
(ちなみに、そのあと目的地へ着くころ雨は止み始めた。
でも捨てるのはなんだか申し訳なくて、
結局、東京まで持って帰ってきた。
今もその傘は家の玄関の片隅にちょこんと置いてある)
![]()
今回の旅で、いろんな人との出会いがあった。
外からやってきた「旅人」に対し、
この土地の人たちはとても親切にしてくれた。
人の心の温かさ、純朴さに触れ、
都会の喧騒の中でちょっと忘れかけていた
「何か」を取り戻したようなそんな気持ちになれた。
出会ったすべてのことに " ありがとう。"


