☆映画の中で唄う人
先々週に金曜ロードショウで放映されたスタジオジブリの宮崎駿監督最終作「風立ちぬ」を観た。
最終作だから我々は例えば「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」といったファンタジーや近未来や太古の創造的世界から何かしらの根本的メッセージを発信していた所謂、宮崎ワールド、みたいなものを期待していたと思うが宮崎監督は、それまでにはない違ったアプローチを用意して、最後の最後まで攻めの姿勢だったことに、改めての敬意を表する。
そんな「風立ちぬ」は今更ストーリーを語らずとも好きな方なら当然ご高覧のことと存ずるので省くが、映画の中でドイツのスパイと思しきカストルプと言う外国紳士が軽井沢の二郎の前に現れて、菜穂子と二郎の交際を喜び立ち会い人を買って出る。
そんなカストルプが二郎滞在のホテルのラウンジでピアノを弾き語りするのだが、それに釣られてその場に居合わせた全員でカストルプが弾き唄う♫命かけて只一度 をドイツ語で合唱するシーンにエラく心を打たれた。
この歌は1931年に公開されたドイツ映画「会議は踊る」の主題歌で主演のリリアンハーベイが唄った名曲である。
その「風立ちぬ」のシーンとオリジナル盤の映像をご覧いただく。
「風立ちぬ」Ver.は↑↑ココをタップする
オリジナル盤は↑↑ココをタップする
ドイツ語も英語もよく分からない、という方のために日本人歌手によるVer.も用意しました。
1934年に奥田良三が渡独してドイツグラムフォン専属楽団をバックに吹き込んだ日本語Ver.である。
バックの演奏が本格的ドイツ製楽団なのが何より嬉しい。
奥田良三も気後れすることなく堂々たる歌唱振りに日本人の心意気を感じて尚嬉しい。
奥田良三Ver.は↑↑ココをタップする
映画の中で歌を唄う…と言うのはそこに何がしかの意味が含まれるものだが、「風立ちぬ」のドイツ映画の歌と言うのはこの時代の象徴と言うべきか。
枢軸国であったドイツやイタリアと日本は同盟国であり、戦争中に敵国の欧米諸国の文化を禁じていた訳だが、それでもドイツやイタリアの歌なら免れていたのである。
そうした時代の空気を宮崎監督は描くためにこの歌を歌わせたのであろう。
宮崎駿のそうした時代を伝える描写は1960年代初頭の横浜を舞台にした「コクリコ坂から」でも息子の宮崎吾郎の演出により鮮やかなまでに再現されていた。
さて、映画の中の唄うシーンで一際印象的だったのは、戦中にマイケルカーティス監督で日本では戦後に封切られた名画「カサブランカ」の中のドイツ国歌VSフランス国歌のシーンがやはり劇的に盛り上げていた。
フランス領モロッコのカサブランカ…ここは親ドイツのヴィシー政権下であるがアメリカ人リックが経営するバーで毎夜アメリカへ亡命志願者やそれを食い物にする怪しげな身分の人種が生きかう所だった。
リックの酒場は当然のようにドイツ将校が出入りしていたのでドイツ国歌の♫ラインの守り を唱和するのは自然な流れなのだが、その夜はリックのパリー時代の恋人イルザ(この時のイングリッドバーグマンは息を呑む美しさ)とその夫でドイツに併合されたチェコスロバキア人の活動家ラズロが居合せていた。
そんな流れで活動家ラズロは目の前でドイツ国歌を高々と唱和する光景は鼻持ちならない訳で、当然ラズロはリックの雇う楽士に♫ラ・マルセイエーズ
を奏でるよう指示をする。
バンマスはリックの顔をチラ見してハンフリーボガート演じるリックは微かに頷き、OKのサインを出す。
やがてフランス国歌がドイツ国歌を上回る音量で響き渡り、束の間の戦勝気分に包まれる。。。
と言うシチュエーションでこの動画は終わる。
このあとの展開は是非本編をご覧下さいまし。
それでは、ラストにグッと時代は下り1980年代。
ノスタルジックの申し子ウッディアレン監督の「カイロの紫のパラ」。
もうこの映画自体それこそ映画中に歌うシーンがふんだんに現れてアレン流ミュージカル的展開なのだが、この映画の中で劇中のトムバクスターがそれに憧れるセシリアことミアファーローの前にスクリーンを飛び出して実際に現れると言う奇想天外なストーリーなのだが、2人で逃走している最中に或るおばあちゃんの家に紛れ込むのだが、セシリアは呑気にウクレレを弾き劇中人のトムが唄うシーンは、20年代風の小粋な流行歌っぽくて、私は好きだった。
トムが最後にハーっとため息を吐くのが確認出来るが、あれはため息ではなく20年代に活躍したビングクロスビー擁するリズムボーイズが歌のラストでよくやっていたもので、そんな細かすぎてよく分からないとこまで忠実に再現する辺りは、アレンの芸が細かい。
又、それに続きおばあちゃんがすかさずストライドピアノをリフレインして弾き始めて、もう一節トムが唄い大団円と言う小粋な演出が、小気味いい。
映画は何と素晴らしい❣️
それでは皆さん、さいならさいならさいなら(^-^)