小生はこれまで

805とスピーカースタンドはネジによって固定してきた。


理由は単純に安心感があるからで、地震のリスクなど考えるとここにインシュレーターを入れるのは抵抗があった。


加えて805diamondまでの純正スタンドは正直デザイン先行で叩くと固有音が酷い。


支柱部分は砂を充填する事でデッドニング出来るが、特に天板は薄く叩くとカンカン鳴る始末で、ここの鳴きをボルト留めで抑えてしまうのはとりあえず無難な選択だった。


定価スタンド込みで70万を超えるピアノブラックの805Dは指紋を付けるのも気が引けたので、設置を変える事で傷付けるリスクを犯す気にもなれなかったし、とにかくダイヤモンドツィーターを破損する恐怖からインシュレーターのテストと言うのはなかなか気が進まないタスクだった。



しかし、805D3を導入するにあたり、ここをどうするかでスタンドの選択も変わってくる。


せっかくインシュレーターの入れ替えが容易なブックシェルフなので、ノーチラス805のうちにいろいろ試して見ようと思い立った。





オーディオテクニカ 真鍮+ハネナイト




とりあえず定評のあるオーディオテクニカの真鍮とハネナイトのハイブリッド。


真鍮とは銅に亜鉛を添加した合金で、インシュレーターとしては良く響く素材となるが、逆にハネナイトは極めて振動吸収の高いゴムのような素材で、これを組み合わせるとどうなるのか興味深い。


4点でも安定したのでこれで視聴。




うーんこれはダメである。



音の粒立ちが全て死んで実在感が消失。



もうなんかダメダメ過ぎて、オーディオにゴム系はダメ説は本当だなと納得してしまった。


これはアッテネーターと電源タップに使っているハネナイトも悪さをしていないか他のものに置き換えてテストする必要がありそうだ。


インシュレーターは底面にゴムと両面テープが貼ってあるものも多いが、インシュレーター間に柔らかい素材が入るのは良い方向には行かなそう。


純正機器はインシュレーター底面に大抵フェルトが貼られているので、硬質素材に変えるのは効果高そう。


スペーサーなど挟む場合も接着せずに硬質なもので行うようにした方が良さそうだ。





オヤイデ ステンレススパイク



お次はこちらも定番、オヤイデのステンレススパイク。


本来はスパイクと受けのセットで使うものだが、受けはスピーカーを売却した際におまけで同梱してしまったのでスパイクのみで使用してみた。


スピーカー底面が傷付かないようにスパイクは下向きだが意外に座りが良く、これはスパイク受けを入れるより安定性がありそう。


スパイクとスパイク受けは常にセットで考えがちだが、相手が金属や大理石ならスパイク受けは必要無い。むしろスパイク受けは不要と唱える人も多く、入れるか否かはこれまた聞いて見るしかないが、先端が変形して積極的に振動を吸収するスパイクに比べ、スパイク受けは素材を変えても音の変化は小さいだろう。


音を再生するとこれは面白い事になった。アタックの起点が一気に鋭くなった一方で、スコッと音の一部が抜け落ちたところと嫌な音が強調される部分がある。


このマイナス要因の原因は十中八九スタンドのペラペラの天板の剛性不足だろう。やはり純正スタンドはスピーカーとボルト留めする事を考えて設計されており、単体では明らかに剛性が足りず鳴きもひどい。


一方音の立ち上がりの鋭さには目を見張るものがある。


もう一度スタンドにベタ置きしてネジで固定すると、確かに付帯音は減るが、音がのっぺりして抑揚が無い。いわゆる"音が死ぬ"と言う方向である。


とにかく音がふん詰まっているような印象で、スピーカーの底盤を解放するのは思いの外重要なようだ。


これまでB&W804803のトールボーイタイプは台座が無くて不安定と言う声が多かったにもかかわらずワイドな台座が追加されて来なかったのだが、底面を強固な台座で押さえつけると音が悪くなることを嫌ってのことだったのだろう。


スタンドの天板の鳴きが惜しいが、聞き比べる程スパイク有りが実在感と開放感があり、スパイク無しの音には戻り難い。


特に、両目テープやボルトによるストレスが無いのはかなりプラスに働いているように見受けられる。


高剛性なスタンドにインシュレーターを介してスピーカーを設置すると言うのが805の使いこなしの最適解と言えそうである。そうなるとボルト穴の為に専用スタンドにこだわる必要もなさそうである。





TAOC 鋳鉄スパイク



鉄に炭素を添加したTAOCお得意の鋳鉄。ただの鉄に比べ優れた減衰性を有しており、ラックスのハイエンド機器の脚もグラデーション鋳鉄を使用している。オーディオ用にオリジナルの鋳鉄を製造出来るような製鉄会社は国内でも限られるので、これも恐らくTAOCの供給によるものと見て間違いないだろう。


TAOCの最高峰インシュレーターは上下異なる鋳鉄のセットになるがこちらのグラデーション鋳鉄は鋼に近い硬さをステンレスピンスパイクの減衰性で補っている。


TAOCはグラデーション鋳鉄のスパイクが上で、下に受けプレートと言う使い方を推奨しているが、一方で上下逆の状態と受けプレート無しの上下の計4通りの使い方を試して欲しいと公言している。


背の低い25PINでも一つ250g6個で1.5kgとかなり重量である。これはアンプとCDプレーヤーの為に購入したのだがコイツもスタンドとスピーカー間で試してみる。


再生音は非常にステンレススパイクに似ているが、そこに重さが乗って来る感じ。音に厚みというか重量感と言うか、オヤイデの小さなステンレススパイクに戻すとやや軽く薄っぺらい音に感じてしまう。


特筆すべきは瞬発力でパッと瞬間で放たれる音に速度感と重さが加わる点。音の起点の瞬発力がハッとするようなリアリティを生み出している。


これはインシュレーターとしての振動吸収性より感性重量が増えた事による効果が大きいだろう。805自体は10kg程度しかないので高速で空気を押し出すとスタンドの脆弱さも相まってスピーカー本体が揺さぶられてしまう。


3個で750gの感性重量が加わる事によって、音源の重さ、弦の張力などが見えてくる。


このインシュレーターは高さ25mm、250gのものになるのだが、タオックには高さ46mm、800gの重量級ラインナップも存在し、こちらも気になるところである。


重さと言う点で話をすると、アフターメーカーのスピーカースタンドが1本20kg程度なのに対し、純正スタンドは110kg程度しかない。焼き砂を詰めれば多少改善するものの、各部のペラペラ感は拭えない。





カーボン



オーディオに置いてカーボンの振動吸収性には以前から着目されているが、その値段がぶっ飛んでいるのがカーボンと言う素材。


例えば100kpmで走る事を想定した自転車のホイールやフレームに使われ命に関わる場所で使われるカーボンでさえスペーサー一枚数百円である。


これでも超超ジュラルミンより高い値段だ。


オーディオ用の自称「ドライカーボン」というものは見た目はかなり粗末なものだが値段が暴利的である。


ホンモノのカーボン強化樹脂は一部ではドライカーボンだとかリアルカーボンだとか呼ばれるが、グレートや繊維の方向、樹脂の含有量、製造方法で全く違う性質となり、木のようにバキバキ割れるものからガラスのように砕けるものまで千差万別である。


オーディオ用のものは異常な高額の割にそれほど良いものには見えないのが正直なところ。


とりあえずそんなものに大金を割くのもバカらしいので、模型用のカーボンワッシャーを24枚購入。価格は3千円程度。


真ん中に穴が空いていなければスパイク受けとしても使えるのだがワッシャーだからしょうがない。


設置は非常に困難で100万円クラスのスピーカーでは絶対やりたくないところだが、一度乗せてしまえばどっしり安定する。


音は少し落ち着いたように感じたが、数日聞いてカーボンワッシャーを外すと金属臭さに驚く。


音の起点、アタックが多少丸くなるが、カーボンはかなりスタンドの天板の鳴きを吸っていたようである。


オヤイデのステンレススパイクを外しワッシャーのみにするとややベタ置きに近づく感じでイマイチ。スピーカー底盤が振動すると考えるとスタンドとスピーカー間の幅も音に関係あるのかも知れない。


大いに振動吸収効果はあるようだが、音のカドと言うか微妙なニュアンスが吸われている感じは否めない。


ワッシャーのみだとベタ置きとスパイク有りの中間的な感じにブーミーになるので金属スパイクと併用がベターのようだが、ワッシャー形状は使いやすいとは言えないのでもう少し面積が広いプレートを金属スパイクと組み合わせるのが良さそうである。


響かない強固なスタンドなら要らないか。





TAOC+オーテクインシュレーター




硬質なインシュレーターをただ置くと言う設置方法が最も小生好みな事が分かったが、一方でボルト留めしないと純正スタンドの天板は盛大に鳴くようになってしまう。


そこで、スタンド天板の空いたところにオヤイデの真鍮+ハネナイトのインシュレーターを置いてデッドニングしてみた。インシュレーターとしてはイマイチだったが、レゾナンスドチップとしてはかなり使える。


これが大当たりで、スタンド天板を叩いてもほとんど鳴かなくなった。


音も雑味が抑えられ、TAOCの瞬発力、最低域の押し出しと相まって手持ちの組み合わせでは最適解と言って差し支えないだろう。


この上を望むならスタンドの交換となるがそれはまた別のお話。








まとめ



だいぶめんどくさい実験だったが、収穫は多かった。


先ず両面テープやゴムが介在するインシュレーターは避けた方が無難。インシュレーターはボルトなど介さずベタ置きするのが一番良いと機器メーカー技術者が発言していたのを見た事があるが、スピーカーでも同じ傾向が見られた。


小生も実はトールボーイ時代はずっとDALIの両面テープタイプのスパイクだったが、一度貼ってしまうと付けたり外したりが出来なかったのでそれがデメリットかどうか聞き比べる事もしなかった。この先両面テープやゴムの付いたインシュレーターをスピーカーに使う事は無いだろう。


それにしてもスピーカーとスタンドをねじ止めするとこれほど音をスポイルしてしまうと言うのも衝撃だった。


多分805ユーザの半数以上はねじ止めに甘んじているだろう。


小生は常に804の導入も検討しているのだが、何故804は安定性の高い台座を付けてくれないのかといつも思っていた。しかし、これはおそらく804でもエンクロージャーに直にスパイクを付けるのが圧倒的に音が良いのだ。


今回の実験を経て、強固なベースに804を固定してしまうと、音がフン詰まってしまうのが想像出来る。


振動吸収に関してはオーディオボードが十分仕事をしてくれているようなので、スタンド周りは硬いものが好印象となったのだろう。


今後はスタンドをさらに高剛性なものにするのと、オーディオボードをさらに硬質な大理石に変えるなども試してみたいところ。


振動を吸収しない大理石が土台の場合は、スパイクの構造や素材変更による効果の出方も変わってくるはずである。