今日は「フィクション」についてである。1990/10アルバム「ハンサムボーイ」に収録されている。先週の「ギャラリー」では触れなかったが、そこには歌を作ってくれないかという女性シンガーからの依頼を待ち望んでいる陽水の心理も同時に描かれている。しかしそんな期待はフィクションであると言っているようだ。期待してもそんな依頼はもう来ないということではなく、そんなことにはもう首を突っ込みたくないと言いたいのだろう。しかし数々のヒット曲を生んできた陽水を見込んで、多くの依頼が舞い込んできていたのは間違いない。そんな依頼を期待する心理ともういいやと思う気持ちがせめぎ合っているようだ。
「叶えられぬ恋はただのフィクション 日ごと夜ごと想いつめても」。曲を作ってほしいというお願いをされても、どんな曲を作ったらいいのか、いろいろ考えてみてもイメージが湧かないことには、作りようがないということか。「夢に描く熱いKissはフィクション たとえ強くいだき合えても」。熱いキスが頭を過ってはいるが、それから先の進展が想像できないと。「夜はずっとララバイ 星に全部Good Night 沈みそうなBedで 君にそっとGood Bye」。夜になると思い浮かぶのは子守唄だけで、星を思い描いても何も浮かんで来ないと。
「I love you I love you 見つめ合いたいけれど I love you I love you わかり合いたいけれど」。君にふさわしい曲をなんとかしたいと思ってはいるんだけれど。「忘れられぬ恋はすでにフィクション 朝に夜に想い出しても」。過去のヒット曲を想い出してもどうにもならない。「胸のヒダに残る傷はフィクション たとえ深くきざみこんでも」。自分ではうまく行ったと思っていた曲でも全くヒットしなかったこともあったと。この頃は女性シンガーのことをあれこれ想像しても何も浮かんで来ない状態だったようだ。「クレイジーラブ」や「飾りじゃないのよ涙は」を作った1980年代初期の頃とは意欲の面でも心理的にも後退していたのではないだろうか。別の見方をすれば、陽水から見て魅力的な女性シンガー が居なかったのかもしれない。