今日は「ギャラリー」について考えてみたい。1990/10アルバム「ハンサムボーイ」に収録されている。1980年代前半は、「クレイジーラブ」で書いたように他のミュージシャンへの楽曲提供を積極的に行っていたが、後半は「夏の終わりのハーモニー」で見られるように消極的な姿勢に変わっている。しかしこの曲は荻野目洋子さんに提供した楽曲である。自分のことをギャラリーであると言っている。シンガーとしての陽水は捨て楽曲を提供することでミュージシャンを輝かせることのできるギャラリーであると。1980年代のヒット曲が脳裏に蘇ってきているのと同時に、これまで作ってきた曲を思い出しているのだろう。
「バラ色に輝く 恋の口づけは 私なら誰よりも きれいに見せるわ」。「いっそセレナーデ」のことであろうか。それとも「ワインレッドの心」のことであろうか。「だって私はギャラリー どんな恋も 何度も夢見て知ってるから」。「帰れない二人」や「恋の予感」で語られていた恋や「リバーサイドホテル」や「クレイジーラブ」で見られる恋を表現してきていると。「真夜中のデイトも 恋のお別れも 私ならあなたより 自然に出来るわ」。「真夜中のデイト」とは「断絶」、「恋のお別れ」とは「ゼンマイじかけのかぶとむし」のことであろうか。さまざまな視点からの曲を作ってきた陽水だから言えるのであろう。発想の多様性とそれを的確に表現できる才能に長けている人である。
ただしこの曲は荻野目さんのために作った曲とは思えない。あくまでも自分のためのものではないだろうか。荻野目さんのことはもちろん知っているが、この曲のイメージとは全く結び付かない。過去に作った「クレイジーラブ」や「飾りじゃないのよ涙は」とは、曲の出来ていった経緯が明らかに異質ではないだろうか。
最後に蛇足ではあるが今回の曲とはあまり関連はないが面白いエピソードを聞いたので書いてみたい。毎週欠かさず楽しみにしている数少ない番組である「路線バスで寄り道の旅」を見ていたら、俳優の堺正章さんがゲストで出演していた。堺さんはスパイダースでグループサウンズのブームを牽引していたのであるが、GSが終焉すると同時にフォークブームが来ようとしていた頃に、かまやつさんが陽水を連れて堺さんを訪ねてきたことがあったと。堺さんは「はじめまして」と挨拶したという。かまやつさんは「陽水からのお土産だよ」と持ってきたものは、まさかの「消火器」だったとのこと。陽水は「つまらないもんですけど」と差し出したという。「本当につまらないものを持ってきたな。アイツも大したもんだよ」と堺さんは当時を振り返っていた。陽水の相当謎めいていて尖った性格が垣間見られるエピソードである。