今日は「青い闇の警告」である。この曲は、1978/7にリリースされたアルバム「White」に収録されているが、このアルバム発売からさかのぼること2年前の1976/9に、陽水は大麻で逮捕されている。10日ほど拘留された後、1976/10/11に懲役8ヶ月、執行猶予2年の判決が確定されているが、この事件を彷彿させるようなアルバムタイトルであり、シングル盤タイトルである。
曲全体からは、差し迫った様子と陽水の心の起伏の激しさが伺われる。また、この頃の周辺の出来事として1972/6に父親が亡くなり、また1976/2に最初に結婚した熊本県出身の一般女性との離婚が成立している。私事ではあるが、親父というのは、子供にとって、頑張っている姿を誉めてもらいたい存在ではないかと思う。親父に誉めてもらいたいために頑張ったり、叱られるようなことはしないという側面があるように思うので、4年も経っているが、影響があるのではないかと思うわけである。
 「星のこぼれた夜に 窓のガラスが割れた 俺は破片を集めて 心の様に並べた」とは、これまで持ち続けてきた一般市民としての常識が、逮捕によって、ガラリと変わってしまったような衝撃を受けているようだ。「何か未来の事を すぐに知りたい俺は 指にダイヤルからませ 明日の日付で廻した」とは、これから先、どうなっていくのか分からず不安を抱いているようだ。「ひどい嵐の中で 長い手紙が届き 俺は返事にとまどい 軽く礼儀を忘れた」。頭が混乱している状態で長い手紙をもらっているが、送った相手として考えられるのは、母親、お姉さん、友達であろうが、返事に戸惑っている様子から、相手は母のような気がする。
「やがて気分が変わり 俺はミセスに恋し ななめによろけ悲しみ 床にひれふし泣いてた」。手紙をもらって、少し冷静になれたようで、自分のやった事を、心から反省しているようだ。「俺はこたつで生まれ 狭い風呂場で遊び 重い毛布にくるまり 夜の間に育った」。この表現は、拘留されていた時の生活を言っているのであろう。毛布にくるまって、こたつでじっとして、夜もねむれなかった状態だったようだ。「今の住所はここで 固い扉が守り 俺はつめたい息をし 水を飲むたび凍らす」。固い扉とは、留置場の扉なのだろう。冬でもないのに、身体が芯から冷えているようだ。「俺は心を変える 俺は心を変える 上り下りの気持じゃ 好きなあの娘に会えない」。自分のしでかした事を反省し、やり直す決心をしているようだ。「悩むテレビの後で 迷うラジオが終り 俺の熱意もつづいて フェードアウトに消え去る」。悩んだり迷ったりしたのも、これで終わりということだろう。
この曲は、逮捕され10日ほど拘留された時の心の変化を語っているようだ。親父が亡くなったことで歌手として頑張って行く心の支えが薄れてきていたうえに、離婚が成立したことで独りぼっちというなげやりな状態だったのかもしれない。 逮捕という、善良市民としては、あり得ない状態に陥ったわけであるが、そんな陽水を救ったのが母の陽水を思う気持ちだったのではないだろうか。「そんな子供に育てた覚えはありません」と、毅然とした母の態度だったのかもしれない。