今日は「最後のニュース」である。この曲は、ニュース23のテーマ曲として筑紫哲也さんから依頼があって作ったもので、1989/12シングル盤としてリリースされている。
「闇に沈む月の裏の顔をあばき、青い砂や石をどこへ運び去ったの」とは、1969年にアポロ11号の月面着陸が成功し月の物質を地球に持ち帰ったことであり、科学技術の進歩の象徴として称賛された出来事であるが、陽水にとっては、他のネガティブな出来事と同列なのであろうか。
「忘れられぬ人が銃で撃たれ倒れ、みんな泣いたあとで誰を忘れ去ったの」とは、何度となく繰り返されてきた戦争である。身近な人を殺され、悲しみに暮れ泣いたことを忘れてしまい、また戦争を繰り返してしまうと言っている。「飛行船が赤く空に燃え上がって、のどかだった空はあれが最後だったの」とは、1937年に起こったヒンデンブルク号爆発事件のことであろうが、その後1985年の日航機墜落事故など、繰り返されている航空機墜落事故のことを言っているのであろう。「地球上に人があふれだして海の先の先へこぼれ落ちてしまうの」とは、この歌がリリースされた1989年頃には世界の人口が50億人に達し、増加スピードが加速していることを言っているのであろう。 「今 あなたにGood-Night ただ あなたにGood-Bye」。それらのニュースに、Good-NightそしてGood-Bye。
 「暑い国の象や広い海の鯨 滅びゆくかどうか誰が調べるの」とは、大気汚染や海洋汚染などの環境破壊、更に深刻な人間による乱獲が進んでいることで、象や鯨が絶滅の危機に見舞われていることを言っているのだろう。「原子力と水と石油達の為に私達は何をしてあげられるの」とは、原子力で使用するウランや、水、石油などの資源は、いずれは枯渇してしまうが、我々は、それを見ていることしかできないのかと言いたいのだろう。 「薬漬けにされて治るあてをなくし、痩せた体合わせどんな恋をしているの」とは、薬の進歩で人間の寿命は著しく伸びているが、身体は薬漬けになっていて、そんな体で人類の未来があるのかといいたいのか。「地球上のサンソ、チッソ、フロンガスは森の花の園にどんな風を送ってるの」とは、大気汚染が進んで、空気さえも不足してしまうかもしれないと言いたいのだろうか。 「今 あなたにGood-Night ただ あなたにGood-Bye」。それらのニュースに、Good-NightそしてGood-Bye。
 「機関銃の弾を体中に巻いてケモノ達の中で誰に手紙を書いてるの」とは、人間の中に潜む矛盾、狂気と慈愛が同居していると言いたいのか。「眠りかけた男達の夢の外で目覚めかけた女達は何を夢見るの」とは、男と女は、 いつもすれ違いの状態で分かりあえない存在であると言いたいのか。 「親の愛を知らぬ子供達の歌を、声のしない歌を誰が聞いてくれるの」とは、世界を見渡せば、親のいない子供逹が増えていて、そんな子供たちが大人になって健全な社会が築けるのかと言いたいのか。「世界中の国の人と愛と金が入り乱れていつか混ざりあえるの」とは、国と国との経済格差、貧富の差が益々大きくなっていると言いたいのか。 「今 あなたにGood-Night ただ あなたにGood-Bye」。それらのニュースに、Good-NightそしてGood-Bye。
 陽水はこれらのニュースを、 ただ静観しているだけに見える。人間の欲望や科学技術の進歩が生み出した出来事として、否定も肯定もせず、ただ静観しているようだ。こういう姿勢は、デビュー当時から一貫していて、「傘がない」では、静観というよりは、興味がないという歌詞になっているが、デビューから20年が経っており、同じ姿勢はとれなかったのであろう。静観にとどめている。しかしながら、そんなことには興味はないよという歌詞にしたかったのではないだろうか。というのも、偶然かもしれないが、この曲が収録されているGOLDEN BEST の「最後のニュース」の後が「傘がない」となっていて、 最後のニュースで述べている出来事も含めて 、そんなことより、傘がないのが問題であると聞こえるのは、行き過ぎであろうか。