今日は、アルバム「二色の独楽」に収録されている「御免」である。
「なんにもないけど 水でもどうです せっかく来たのに なんにもないので 御免」「いつぞや手紙と 家族の写真 笑って見たけど 返事を出さなくて 御免」。訪ねてきたのは、遠い親戚のようだ。ヒット曲が出て有名になると、今まで付き合いの無かった親戚が突然訪ねてくることがあるらしい。「従兄弟の従兄弟なんだけど大ファンで」とでも言われれば、会話の苦手な男としては、断ることもできず、愛想笑いを浮かべて受け入れてしまうのだろう。「次のアルバムの打合せが続いていて、これから出かけなきゃならないんだよ」とかなんとか、それらしい言い訳を作って、断ることもできると思うんだが、そういうことが出来ない人なんだろう。
それにしても、一般的には、お茶かコーヒーぐらいは置いてあると思うのだが、水しかないとは、どういうことだろう。お湯の湧かしかたがわからないということもないであろうから、長居してもらいたくないと思っていて、わざと出さないつもりでいるのだろう。
エッセイ集「綺麗ごと」で「なぜ詩を書いたり、曲をつくったりしているのかと考えると、ひとつ確実に言えるのは、人よりも会話のコミュニケーションが不得意だということである。人と関わるのが不得意な分だけ、異常に音楽の方向に行ってしまった。」と書いている。
「重ねてTVも 調子がおかしくて そうですか あなた 野球が好きですか 御免」というフレーズから、野球好きの人が野球を見出したら終わるまで帰らないだろうから、やっぱり長居をしてもらいたくないということなんだろう。この曲で「なんにもない」と言っているのは、「何を話したらいいか、話題が全くみつからないし、仮に見つかったとしても、どう話していいかわからない」と言っているのだろう。「家内が帰れば なんとかしますから」と奥さんが早く帰ってくるのを待ちわびている陽水の姿が目に浮かぶようだ。なお、最後に「なんにもないけど 又 来て下さいね 家内が帰れば なんとかしますから 御免」と言っているが、こんな社交辞令は、陽水らしくないと思うのだが、以外にもそんなことを気にする人なのかもしれない。
最後に付け足しではあるが、この曲が収録されているアルバム「二色の独楽」は、1974/10リリースであり、陽水の最初の結婚は、1974/1であるので、この曲で言っている「家内」とは初婚の奥さんということになるが、2年後に離婚していることから、結婚当初から、あまり上手く行っていなかったのではないかと思われる。ここから先は、想像でしかないが、「あいにく家内は 里へ帰っていて」という下りは、単なる里帰りではないんじゃないかとか、なんにもないところに良く来てくれたという意味は、口下手で、一緒に居ても楽しくない俺と結婚してくれたことを言っているのではないかとか、更に何度も「御免」と言っているのは、奥さんに対して言っているのではないかとか、あれこれ想像してしまうが、それは考えすぎたろうか。