今日は「紙飛行機」について考えてみたい。

陽水の初ヒット作になったのが1973/3にリリースされた「夢の中へ」であるが、「紙飛行機」はその前の1972/12にリリースされた「陽水Ⅱセンチメンタル」に収録されている。

「白い紙飛行機 広い空をゆらりゆらり どこへ行くのだろう どこに落ちるのだろう 今日は青空が隠れている」 は、再デビューした頃の、今後の見通しが立たない状況を表現しているのだろう。世の中が何を望んでいるのか、いま何が問題なのか、どんな歌詞が受け入れられるのか、自分は何を訴えたいのかなどと、曲作りへの取り組み姿勢を試行錯誤していたものと思われる。このような試行錯誤の状態を「今日は青空が隠れている」と表現しているのだろう。

「風が吹いてきたよ 風にのれようまく だけどあまり強い風は 命取りになるよ 君はプロペラを知らないのか」とは、1972/5にリリースした初のアルバム「断絶」で手応えを感じていたんだろう。今後、更に人気が出て上り調子になったとしても、あまり調子に乗るなと言っているようだ。「雨が降ったら 弱い翼はぬれてしまう」とは、人気はでてきているが直ぐ下火になることもあるよということか。いや、直ぐ下火になったり、消えていくことの方がほとんどなんだからと。

「強い雨も風も 笑いながら受けて 楽しく飛ぶ事も悪い事じゃないよ」「だけど地面に落ちるまで短い命だね」「君は明日まで飛びたいのか」とは、これから歌手として成功するためには、さまざまな角度からの思考が必要で、真面目にそして真剣に取り組まなければならないという決意表明のようなニュアンスが読み取れる。

陽水が井上堯之さんのラジオ番組に出演した際、「陽水さんは洞察力というか、社会に対する感じ方、人間に対する感じ方がシャープだというか、理解していると思うんだけど、私の場合は、曲作る時、みんな何求めているんだろうというのが分かんないんだよね。だから自分の分かる音楽しかやらないとなってしまうが、陽水さんの場合はどうですか」と聞かれ、「曲作る時、みなさん何を聞きたいのか、どんな事に興味があるのかを絶対考えてないことはないと思うんですけど、実際曲を作る時みなさん何を聞きたいのかということはあまり出てこないですね」と答えてはいるが、陽水の唄を聞けば意識しているのは明らかである。こういう真面目さや真剣に取り組もうとする姿勢こそが、その後の成功の大きな要因の一つであることは間違いないのであろう。