白くて可憐な花が
ひとつ咲いている
寒い冬の手前に
昼下がりの晴れた日に
冷たくかじかんだ手を
握りしめて歩いている
小さな山のような野原に
たった一輪の
白い花が咲いている
小さな山を見上げて
可憐な白い花に
触れたいと思う
少年は
赤い帽子をかぶり
小さな山の上の
白い花を見ている
あこがれを持って
胸いっぱいに熱をためて
小さな山を登る
手をついて
若草の匂いを感じ
鼻と口に入り込む
冷たい空気を感じ
手をついて登る
小さな山の
テッペンに咲く
可憐な花
清らかな冷たい水が
泉からわき出るように
少年の心は動く
晴れ渡る空
白い雲
冷たい風
手を伸ばし
白い花に触れようと
手を伸ばした
その時
彼は小さな山から
転がり落ちてしまう
擦りむいて
土と血が混じった手
痛むヒザコゾウ
あと少しのところで
転がり落ちる
息を切らし
白くて可憐な花を見る
赤い帽子をかぶった
少年は
もう毎日毎日
白くて可憐な花に
触れたくて
毎日毎日
小さな山を登る
毎回毎回
転がり落ちる
一度も触れることなく
少年は明日も
小さな山を登るだろう
少年は来年も
小さな山を登るだろう
この冷たい
風の吹く日に咲く
可憐な白い花に
触れたくて
今年も金木犀の香りの季節が過ぎ去ってしまった
毎年、キンモクセイの木を実家に送ろうと人知れず強い思いを持つのだが、今年も送れなかった。
毎年、この香りを両親に送りたいと思う。
キンモクセイの木は、それほど大きな木ではないしな、といつも思う。
キンモクセイの木の値段はいくらくらいなのかさえ調べたことがない。
今年は鼻づまり気味でもあり、せわしなくもあり、花の香りに触れるひとときを持つことは少なかった。
10月下旬の冷たい風が心地よい夕方には、この花
5月下旬の涼しい早朝に淡い色をした薔薇の香り
こうして、過ぎ去っては忘れ、忘れては過ぎ去っていくことを楽しめる嬉しさ
あの時ラジオから流れてきた素敵な音楽
優しいパーソナリティーの声
曲名も、パーソナリティーが誰だったのかも思い出せない。
それでいい。
思い出せななくたっていい。
そんな時間がなんだかいい。