今から40年前の6月6日、神奈川県川崎市のとあるエホバの証人の信者の10才の息子さん「大ちゃん」が交通事故に遭われました。そして、両親の強い願いのもと、大ちゃんは輸血治療を受けることなく亡くなられました。
この事件に関する記事を多くの方が書いておられますが、数日前に、ある方のエックスの投稿(https://x.com/trep_pallidum/status/1930792076758884573?s=46&t=BB0vMn4YssFd2nOaqddcUw)で2件のエホバの証人の輸血手術の症例報告を紹介されていましたので、了承を得て、投稿者ご本人のコメントを含めて以下に記載させて頂きます。
症例①
Xコメントより:
>「急性妊娠性脂肪肝」という大量輸血と緊急帝王切開を実施しなけば救命できない状態になった妊婦さん
夫婦ともエホバの証人信者であったため当初は輸血を拒否しますが、病院側の説得に応じ輸血を実施。結果的に母子ともに救命されています>
(↓以下)
日本臨床麻酔学会誌Vol.17 No.5/Jun. 1997より
「凝固障害を伴う急性妊娠性脂肪肝を合併した「エホバの証人」の1例
石山由香里 加藤清司 松崎重之*2
要旨 33歳,妊娠27週 に発症した急性妊娠性脂肪肝の妊婦の帝王切開の麻酔管理を経験した.
著明な凝固障害と出血傾向を合併していたため,全 身麻酔のみで管理した.診 療上,輸血は不可避であったが,患者は 「エホバの証人」だったため,最初は手術そのものを拒否していた.
患者の全身状態と手術,輸血の必要性を十分説明し,「最大限の努力をしたうえで,最小限の輸血にしてほい」という了解を得たうえで輸血を行ない,救命しえたが,患者の希望を尊重した結果,輸血開始時期の判断に苦慮した.
キーワード:エホバの証人,急性妊娠性脂肪肝
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca1981/17/5/17_5_324/_pdf
症例②
Xコメントより:
> 交通事故で大量出血した18歳男性に輸血を施行した例
こちらは本人・家族とも説得に応じなかったものの病院側の判断で輸血・救命に至っています
2000年に輸血拒否についての最高裁判決(*)が出る直前の事例で、時期が少しずれていただけで結果は変わっていたかもしれません
この事例では、患者家族・協会幹部(恐らくHLC)が「とにかく輸血をしないで患者を死なせてほしい」と病院側に再三主張したと記録されており、医療スタッフが強いプレッシャーの中で必死に救命にあたってくれたことが伺えます
…「命を大切にする宗教です」とか、どの口が言ってるんでしょうね >
(以下↓)
日本救急医学会雑誌 2001; 12: 59-62より
交通事故の被害者で大量出血した
エホバの証人の信者に対して輸血を施行した1例
濱島 高志 池田 栄人
上島 康生 城野 晃一
斎藤 朗子 栗岡 英明
依田 建吾
昨今ら医療現場において治療方針を決定する際、
患者の権利や希望を重視する傾向にあり、もし「輸血を受けたくない」という患者の希望があれば、可能な限りそれに沿った治療をすることは医師の責務である。しかし一方、その希望を聞き入れたために患者の生命を失う結果になった場合、はたして医師の使命を果たしたのかという疑問が残る。教義上、非自己血の体内受け入れを拒絶するエホバの証人の信者(以下、エホバの信者)は、輸血を含む治療を行う際にしばしば医療現場で問題となり、医療機関側の対応に関してはさまざまな議論がなされてきている1-4)。
たとえ、「輸血を受けるよりも死を選ぶ」という
選択を患者および家族がした場合、それが内因性の疾患であればほとんどの場合において問題はない。
しかし今回の報告のよう加害者の存在する外傷疾患では、必ずしも患者の希望だけで治療方針を決められない。本報告では、バ イク事故にて大量出血を来した18歳 の男性(エホバの信者)に対して、本 人が輸血を拒否したにもかかわらず当方の判断で輸血を行い救命し得た症例を提示する。
症 例
患 者:18歳 の男性,身 長172cm,体 重57kg。
Case of a Jehovah's Witness undergoing blood transfusion due
to a traffic accident despite the patient's religion-based refusal
キ ーワード:エ ホバの証人,輸 血,緊 急手術
京都第一赤十字病院救命救急センター
著者連絡先:〒605-0981 京都市東山区本町15-749
原稿受理日:2000年7月10日 (00-056)
既往歴:特 記すべき
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjaam1990/12/2/12_2_59/_pdf
2例目のご本人のコメント中の(*)印について。
> 2000年に輸血拒否についての最高裁判決(*)
この事例とは、症例報告本文にも触れられていますが(以下引用)、「患者への説明義務」が争点になった裁判であり、たびたび信者側から誤って解釈されているような、エホバの証人側の輸血拒否を医療側は如何なる場合でも絶対的に受け入れる義務があるとした判例ではない事を覚えておきたいと思います。
(↓以下引用)
>>東京大学医科学研究所附属病院における、エホバ患者の肝臓切除術の周術期に輸血を行ったケースにおいて平成12年2月29日 に最高裁判決が下され、高等裁判所の判決通りに原告(患 者)側 の主張が認められた。
この裁判での論点は、医師と原告の間で「輸血をしない」という合意があっても、輸血以外に救命手段がない非常事態には輸血をすべきか、という点であったが、これに対して判決文では 「輸血を伴う医療行為を拒否するという意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない」として、一 審判決における 「輸血を拒否することは公序良俗に反する」という判断をくつがえした6)。
また、本判決では 「医師団は輸血の必要性が出た時点で、輸血を行うことを説明すべきであった」とも結論づけているが、この問題はあらゆる治療における 「患者への説明義務」という一般的なことであり、本論文の主筋とは離れるため今回は言及しない。<<
これらの症例報告をご覧になられていかがだったでしょうか。
おそらくエホバの証人患者の輸血拒否に直面した現場の医師が、決して諦めず、いかに救命のために懸命に対応されているか、改めて認識出来たのではないかと思います。そして、患者の命を救おうとするその信念は深い敬意と感謝に値すると思います。
(次回へ続く