「ん~・・・」

干し終わった洗濯物を横目に、青空に向かって大きく背伸びをした瞬間、ポケットのスマホが震えた。


宛名を見ると(安奈さん)とある。


確か今日は清居は安奈さんと同じドラマの撮影って言ってたけど・・・


嫌な予感がして慌てて電話に出る。


「もしもし・・・」


「あっ!平良くん?清居くんが・・・」


安奈さんが言い終わらないうちに平良は財布と鍵を持って家を飛び出していた。


頭の中で安奈さんの言葉が繰り返しいる・・・


(清居くんが撮影中に頭を打って、今病院にいるの。

精密検査受けてるけどかなり強く打ったみたいで・・・)


清居・・・


清居・・・


清居・・・


病院に向かうタクシーの中で平良は

(清居が居なくなったら・・・)

と考えるだけで震えが止まらなくなる。


「清居!」


飛び込んだ病室のベッドの上で、頭に白い包帯を巻いた清居が振り返る。


「清居・・・」


良かった・・・


無事だった・・・


ホッとして近寄ろうと一歩踏み出した平良に清居が話しかける。


「・・・誰?」


「!」


平良の体が固まる。


「平良くん・・ちょっと・・・」


安奈さんに声をかけられて平良は廊下に出た。


「今本人もちょっと困惑してるみたいだけど、軽く記憶喪失みたいになってて・・・」


「記憶・・・喪失・・・?」


「自分のことはなんとかわかるみたいだけど、私や社長やマネージャーも認識出来ないみたい・・・」


「治るんですょね?」


「多分・・・

お医者様もハッキリとは言えないって・・・」


「そん・・な・・・・」


清居が自分以外の人を認識出来ないって?


誰のことも覚えてない?


っていうか思い出せないってこと?


ドアを少し開けて清居を見る。


窓の外を見ながら遠くを見つめている清居が、今にも消えそうな存在に感じる・・・


「昔のこととか、思い出の場所に行けば何か思い出すかもしれないと思って、平良くんを呼んだんだけど・・・大丈夫?」


「えっ・・・

あっ・・・

はい・・・」


安奈さんと二人で部屋に入ると、清居がこちらを見て軽く会釈する。


なんだかよそよそしい・・・


「清居くん。こちらは平良くん。

清居くんの高校時代の同級生なの。」


「同級生?」


「清居くんの通ってた高校とか、思い出の場所に行ってみてはどうかなと思って私が呼んだの。」


「そうなんですか?

ありがとうございます。」


そこに主治医の先生が入ってきた。


「検査の結果、頭に異常はなかったです。

このまま一晩様子見で入院されてもいいですがどうされますか?」


「僕が連れて帰ります!」


間髪入れずに平良が声を発する。


「そうですか?

ではよろしくお願いします。」


「平良くん大丈夫?」


「はい!」


俺は神に仕える身。


清居に仕える身。


清居の傍に俺は居たい・・・


帰り支度をして清居にソッと手を差しのべると・・・


「あっ、大丈夫です。

ありがとうございます。」


拒否された?


本当に俺のことも分からないんだ・・・


軽く絶望と喪失感みたいな感情が平良を襲う・・・


「じゃまず俺の通っていた高校に連れて行って貰えますか?」


「うん、分かった。」


タクシーに乗り高校へ向かう途中も、窓の外を見ながら何かを必死に思い出そうとしている清居・・・


思わず手を差しのべたくなる感情を押し殺して、清居との思い出の場所を思い出していた。


「ここが清居くんが通っていた高校だょ。」


「ここが・・・」


「なにも分からない?」


「すみません・・・」


「謝らないで。

じゃ教室の方に行ってみようか?」


学校入り口の受付で許可を得て、高校3年の春、俺たちが出会った教室に向かう。


「ダメだ・・・何も感じない。」


「あ・焦らなくて・・いいょ。」


教室の中に一歩入った清居がこめかみ辺りを少し押さえる。


「っつ・・・」


「大丈夫?」


「・・大丈夫です。少し頭痛がしただけですから。」


「やっぱり何も感じない?」


「そうですね・・・」


「じゃ次の場所に行ってみようか?」


「はい。」


「この教室は分かるかな?」


「えーとっ・・・」


「思い出せないかな?」


「んー・・・なんかぼんやり・・・」


「そっか・・・」


「すみません。」


「大丈夫。謝らないで。」


初めて自分から清居に触れたあの日・・・


ここで清居の手の甲にキスしたあの教室・・・


覚えてないんだ・・・


ずっと敬語のままの清居・・・


その清居に謝られるといつもの清居がいなくなるようで、胸が押し潰されそうに苦しくなる。


「清居くん。歩きながら次の場所に行ってみない?」


「はい。その方がゆっくり見れるのでいいかも・・・です。」


学校を出て二人で並んでゆっくりゆっくり歩いてみる。


清居が回りをキョロキョロと見ながら、時々立ち止まり何かを必死に思い出そうとしている。


「清居くん、何か思い出せそうな場所あったら言ってね。」


しばらく歩いて行くと清居の足が止まった。


「ここ・・・」


「あっ・・・何か感じる?」


「何か見覚えがあるような・・・」


そこは二人にとっての思い出の場所。


神社だった。


清居がここを思い出の場所と少しでも感じてくれていたことを平良は少し嬉しく感じた。


「でもやっぱり分からないかも・・・ごめん・・・」


「いやっ・・・大丈夫。

じゃ次に行こうか。」


少し歩いて川沿いに出た。


少しずつ近づいてくる。


いつも二人で待ち合わせていた場所。


「っつ・・・」


「大丈夫?」


「大丈夫!

でもここは少し・・・

何て言うか・・・

懐かしい気がする。

しばらく居てもいいかな?」


「うん・・・いいょ・・」


暑くもなく寒くもない、心地よい風が吹いているいつもの場所で並んで座った。


「少し話して貰っていいかな?

おれは平良くんとどういう関係だったの?」


「・・・っえ・・・っと・・」


なんと言えばいい?


友達?


それとも・・・彼氏?


「いやっ、やっぱりいいです。

思い出した方がいいみたいだから、何も言わなくていいです。」


清居の綺麗な横顔が遠く感じる。


このまま清居は俺のことを思い出さないままかもしれない。


でもそれはそれで清居の人生。


俺は清居がこの世に存在していてくれさえすれば大丈夫。


生きていける。


自分の中で清居とはもう一緒に居られない未来を想像し始めていた。


「あの・・・この近くに俺の凄く大事な場所がないですか?

何か忘れちゃいけない場所があるような気がして・・・」


「清居くんが住んでた家が近くにあるょ。

行ってみる?」


「はい。お願いします。」


平良の家に着いた。


「清居くんお腹空かない?」


「お腹・・・空いた。

こんな時でも人間お腹空くんですね。」


「家の中適当に見てて。

なんか作るから。」


慌てて取り込んだ洗濯物もそのままで、平良は台所に入った。


(作るとしたらやっぱりエビコロだょね・・・)


清居は家の中をウロウロして、自分の部屋だった場所とか、お風呂などを見て回った。


平良はその間に清居の好きだったエビコロを作った。


(これが清居との最後の食事になるかもしれない・・・)


泣きそうになる気持ちを抑えてエビコロを揚げていった。


「いい匂い・・・」


清居が台所に入ってきた。


「エビコロだょ。」


「エビコロ?すっごくうまそう。」


「もうすぐ出来るから座って待ってて。」


「でもこういうのは揚げだちが美味しいんだけどなぁ・・・」


そういうと清居は台所から出ていった。


所々でいつもの清居を感じる・・・


はぁ・・・・・


大きく長いため息をついてわざと元気よくエビコロを清居の元へ持っていった。


「お待たせ!」


「うまそう・・・食べていい?」


無邪気な清居はいつもの清居に見える。


「どうぞ、食べて。」


パン!と手を合わせて清居は勢いよく言った。


「頂きます!」


一口エビコロを口に含んだ・・・


とたんに清居の動きが止まった・・


「清居くん・・・?」


「うまっ・・・」


「良かった」


時々頭を抑える仕草をするけど、黙々と黙ったままエビコロを頬張る清居は可愛い・・・


この光景を目に焼き付けなくちゃ・・・


清居との最後になるかもしれない食事風景・・・


最後の一つのエビコロに手を伸ばそうとした清居の動きが止まった・・・


「清居・・・?」


「っつ・・・・うわぁーーー」


いきなり叫んだかと思うと清居は頭を抱えてうずくまった。


「き・・清居!大丈夫?」


慌てて駆け寄ってがむしゃらに背中を撫でる・・・


清居は頭を抱え込んだまま叫び続ける・・・


その後の時が止まったかのような静寂・・・


ほんの数秒だったのかもしれない。


何分も経ったのかもしれない。


平良にとっては長い時間に感じられた。


清居の背中をさすりながら大丈夫、大丈夫と声をかけ続けた。


ツーと上半身を起こしてきた清居。


くるりと振り返ると平良をまっすぐ見つめて一言。


「平良・・・」


「清・・居・・・?」


恐ろしいほどの勢いで清居は平良に抱きついた。


「ごめん、平良。

俺・・俺・・」


「清居?」


「なんでこんな大事なこと忘れてたんだろう。

一番忘れちゃいけない奴のことを忘れるなんて・・・」


「清居?もしかして・・・」


「平良!全部思い出した!

平良のお陰だ!」


「清居!」


「いやっ・・違うな・・・

エビコロのお陰か?違う・・・

平良のエビコロのお陰だ。」


少し体を離してまっすぐ平良を見つめながら潤んだ瞳の清居がいる。


「本当に思い出したの?

良かった・・・清居・・

本当に良かった・・・」


「平良・・・ありがとう。」


涙で辺りがぼやけて見える。


ふと我に返って思い出した。


「あっ・・・安奈さんに連絡しなきゃ・・」


「誰だ!安奈って・・・」


「えっ・・・?

安奈さんは清居の事務所の先輩だょ。」


「事務所・・・?」


「清居・・・覚えてないの?

だって思い出したって・・・」


「思い出したのは平良!

お前のことだけだ!」


「えっ・・・」


「後の事はまだ何も思い出せない・・・」


俺のことだけ思い出した?


少し嬉しくて・・・


同時に不安も沸き上がる・・・


他のことは思い出せないって・・・


その時手に持ったスマホが震える。


宛先は(小山)


「誰?」


「あっ・・・大学の時の同級生の小山。

清居が入ってた劇団の人の弟さんだょ。」


「小山・・・小山・・・」


「もしもし?小山?」


「平良?清居くんがケガしたって?大丈夫?」


「うん。ケガ自体は大したことない。大丈夫だょ。」


「良かった。何か力になれることあったら言ってね。」


「うん。ありがとう。」


電話を切ると清居が不満そうな表情で平良を見る。


「ど・どうしたの?」


「俺・・・全部は思い出せてないから、ほとんどの人が初めましてって感じなんだけど・・・」


「うん・・・」


「さっきの電話の小山って人・・・

初めましてだけどめっちゃ嫌いだわ!なんでだ?」


あっ・・・


そこの感情は残ってるんだ。


思わず頬が緩む・・


「おい平良!何ニヤついてるんだよ!」


「いやっ・・・何でもない。」


無性に清居が可愛い。


「清居・・・おかえり。」


「ただいま・・・平良。」


           END




シーズン1の最終回で清居くんが劇団のリハーサルで話してた💦

「僕はどういう人間だったの?

あー、覚えてない。」

という台詞から😅もし記憶喪失になったら何で記憶を取り戻すか⤴️取り戻すとしたら平良くんのエビコロだょね😁って思って書きました✏️


ちょっと最後はおちゃらけちゃいましたが😅


締まらない終わり方ですみません😢⤵️⤵️


やっぱり文章って難しいですね😓


これからはやはり一人妄想で楽しむことにします✨️