今は何時だろうか


朝日に照らされているにしては部屋が明るい。
オレはまだ醒めぬ目で携帯の時計を見る。
それと同時に親父が部屋に入ってくる。

時刻は7時50分。
早く支度しろと言わんばかりにオレの足を軽く叩く。
スッキリしない体を何とか起こし、身支度を整える。
ドライヤーで軽く髪を整え、寝間着から制服へ着替える。
支度は整い、換気扇に向かうとオレは煙草をふかす。
その時既に8時。
もうこんな時間だ。
どんなに急いだところで間に合うはずがなかった。
オレはいつも通りフィルターのギリギリまで吸うと、火を消し、外へ出る。


案の定、学校の始まりの時間に間に合わなかったオレをクラスメイトの男子が迎え入れる。
特に会話は無いが。

他愛も無い話で盛り上がっている皆を横目に授業の準備に取りかかる。
準備を終えると普段いつも一緒に居るメンバーの中に入る。
なんて事の無い、普段通りの会話だ。


しばらく過ごしていると1限目が始まる。
いざ授業が始まってしまうと6限目まですぐ終わってしまう感覚だった。
だが他の人はそうではなく、とても長く感じるようだ。

(授業に集中せず、友達と喋っているせいだろうが...)
と言いたげになっている口を固く閉ざした。
つい同い年や年下相手だとキツい言葉を発してしまうのが、オレの性格だった。
最近それを悔いたオレは少し発言を自重するようになった。
軽率な言葉は災いの元。
自分はいいと思っても、相手にとっては嫌だったりする。
この考えに行き着いたゆえだ。

この日は珍しくバイトの無い日だった。
だから今日は友達、Nと一緒に帰ろうと考えていたが、

「悪い、今日は進路の面談があるから教室で待っててくんね?」
とNは、ばつが悪そうに言った。
仕方ない...と溜息をついてオレは教室で待っていた。

教室には授業中に騒いでいるグループの一人が自分の席に居た。
何か考え事をしている様子だった。
何をしている、と声をかけると、どうやらそいつも人待ちようだ。
互いが同じ理由だったため、暫く会話を交わした。

普段なら気にも留めない会話をしている奴が、
珍しい話をした。

「俺ってみんなと一緒にワイワイやるよりも1対1で話してる方がいいんだよね~」

「ほう、普段一緒になって騒いでいるお前が?」

「いや、それはみんながMの所に集まりたがるから、
その近くに俺が居るからそうなるだけであって、
俺はグループじゃない方がいいんだけど、別にグループでもいけるクチかなぁ。」

「オレはグループは無理だな。どうしても聞き手に回ってしまうから。
というより、まずオレの所には人は集まらないしな。」

「お前は...何かとオーラが凄いんだよ。威圧感が。
他の奴はさぁ、もわもわとした煙みたいなオーラなんだけど、
お前のは体にピッタリ纏ってる感じなんだよ。自分のものにしているっつーか。
多分、知らない人からみたらすげー恐いんじゃね?
今でも俺はお前が黙ってたら恐えーもんw」

「そうか、他人にはそう映るのか。
まあ、オレは絡みたいと思う奴以外は絶対に話しかけて欲しくないから、
ちょうどいいかもな。」

「だからお前はダメなんじゃね?
もっと他人に優しくなった方がいいんじゃない?」

ああ、ダメだ。この手の事を言われると無性に感情が揺れる。
大きく溜息を付きかけた刹那、助け舟のようにオレの待っていた奴が来た。
じゃあまたな、と話をしていた奴と別れ、オレはNと帰った。

Nは電車通いなので、駅まで送る事にした。
オレは腹が減っていたので駅の近くのコンビニで軽く食事をとる事を伝え、
Nも共に来てくれた。
コンビニのゴミ箱の前で食べていると、

「いきなりだけど、特定の人との関係が壊れるかもしれないけど、聞く?」

「何の事だ。」

「(オレの本名)の席の後ろの奴、君に対して結構酷い事言ってるよwww」

「特に関わりの無い奴がどう騒ごうとオレの知った事か。
それに、ビッチだから仕方ないだろ。」

「確かにwあいつホントにビッチだよねwww」

そうだ。”オレとは関わりが無い”のだ。
オレの事を何も知らないで、自分の都合のいいように陰で罵り、愚痴り倒し、妬む。
オレはそんな奴等とは軽蔑すればいいのだ。

憤ることもなく、悔やむ事もなく。

今のオレは冷酷で、残虐な気持ちになった。

しかし、Nにこの気持ちを知られるわけにはいかないので、
とっさに作り笑いをし、そのまま別れた。
相手も笑顔だった。



to be continued