雨
いや
雪かも
冷凍庫が
全開された
そんな冷たい
空気が広がって
胃腸がキリキリと
温かいものを欲した
今日はたぶん拉麺が良い
帰宅して鍋に火を沸かした
日が暮れてさらに寒くなった
携帯は確かに二回鳴ったけれど
今日は現実逃避をする予定だから
ヘッドフォンで両耳は覆われていた
理由のない切なさは音楽で希釈されて
こってりと温かい拉麺が食べたくなった
こはるの店主は美味い拉麺を作ってくれる
夜
いや
閉めた
心の窓を
鍵盤を叩く
低音は垂直に
高音は双曲線で
誰でも理解できる
言葉を放ち進み行く
拉麺は戸棚の奥にある
今日はこれで我慢しよう
だって外はオゾン臭がして
雪の気配が半端ないと言うか
沸騰した鍋の湯に両手をかざす
そうして湯量は半分以下になった
冷水の継ぎ足しを繰り返し繰り返し
袋から出された麺はその間待っていた
鍋の中に投入されて柔らかくなることを
辣油を足されて温かいスープになることを
声
いや
ピアノ
それとも
壁時計の音
誰かが話して
壁に残る反響音
ずるずると拉麺を
引きずっては食べて
食べては眼鏡を拭いて
汁をすすって深呼吸して
空気を混ぜ込みむせこんで
涙目になり似非カタルシスだ
血も涙もない我じゃないと思う
乾燥した空気でドライアイなのだ
ほらほっこりと拉麺を味わっている
温まった胃腸に温まった指先でひとり
温かい場所を探しグーグルマップを開く
拉麺と言う字が拉致に見えた始めたようだ
おそらく暖かい布団に囚われたいのであろう
暖かい夢の中で今度はこはるの拉麺を食べよう