ふぅ、この時期の雨は冷たいねぇ、そんな寒い夜だから今夜は温かいものを食べたいな。
そう思って街道沿いにあるラーメンチェーン店に入ったんだ。
「イラシャマセー。」
ピシッと両手をそろえて直立不動、見るからに純朴そうなニキビ面の青年のネームプレートには「孫」と書かれていた。
彼に促されるようにカウンター席へ「オキマリニナリマシタラーオヨビクダサイ!」と言い残し、まるで軍隊のように回れ右をすると腰の高さまで両手を挙げて小走りに戻っていく。
メニューを開き、さて何にしようなんて見ていると・・・なにやら視線を感じる。
孫さん「ジーーーーーーー| 壁 |д・)」
が・・・がん見されてる・・・何時呼ばれるかと気になってしかたないようだ・・・。
「あ~・・・んじゃすいません。」と手を上げると、声に出さなかったが口で「アイッ!」と動かしピクンッと身動きしたかと思うと、またあの腰の高さまで両手を上げた小走りでやってきた。
「んじゃネギ味噌チャーシュー~・・・大盛り出来る?」
「アイッ!デキマショ!」
「んじゃ大盛りで。」
「アイッ!」
そのまま去るものだと思っていたが孫君はその場から離れようとしない。
怪訝に思い様子を見ると、なにやら厨房奥をしきりにチラチラと見ている、厨房の置くから厳しい視線を投げかける痩せたメガネのおっちゃんを気にしてるようだ。
「アニョ・・・ギョ・・・ギョーザガオススメデスガッ!ゴイッショドエスカ?」
(ふむ・・・孫君・・・あのオヤジに言わされてるんだな・・・)
とにかく懸命で純朴な中国から来た青年・・・ここから妄想が始まった。
* ここからは妄想ですよ。
「前略、ヤン兄さん(孫君)お元気ですか?体調など崩してはいませんか?家族みんな日本のヤン兄さんの事を毎日心配しています。 ヤン兄さんが日本にいってから全然連絡をくれないのでお父さんやお母さんが時折、寂しそうに東の空を眺めていたりします。 どうか電話のひとつでもしてくれると嬉しいです。こちらは麦の収穫で家族総出で頑張っています、ああ、そうそう、ヤンヤン(末っ子)も小学校に入り今では立派な働き手です。今度の旧正月には帰って来れますか?みんなヤン兄さんの帰りを待ってます。」
「拝啓、ミンミン(顔がクローン技術で生まれたかのようにそっくりな妹)手紙ありがとう、忙しくてついつい連絡が疎遠になってしまってすまない。僕は元気にしているよ、ときときオヤジさんに怒られるけど、でも本当はすごく優しい人なんだ、2枚目の便箋に書いてた似顔絵はヤンヤンが描いたのかい?もう絵を描けるようになったんだね。あの家族みんなの絵を見ていたらシューエイ母さんの作った餃子が食べたくなったよ、本当は今すぐでも二里山村に戻りたい気持ちでいっぱいだけど、でも兄さんはここでやらなくてはならない事がある、だからもう少し我慢しててくれ、次の旧正月には帰れると思うから、お土産を期待しててくれ、追伸、少ないがお金もいれておいたから、父さんの好きな珍劉菜館の坦々麺をみんなで食べておいで。」
とかか!とかなのか!孫君!!!!いいやつじゃねぇいかよい!
こんな言葉もおぼつかない異国の地で心細いだろうに、それでも頑張る姿・・・おいちゃん胸が熱くなっちまったよ・・・。
*妄想終了
「ん!じゃ~ぎょーざもちょーだい。」
「アイッ!」
そして、またもやモジモジと孫君は言うのだ。
「エト・・・タダイマナラ、ミニドンブリガオヤスク・・・ナッテ・・・マス・・・。」
*ここから妄想ですよ。
「勝手に日本に行くって言って、もう1年以上なにも連絡をよこさないなんて、私のこと忘れちゃった?きっと日本には綺麗な人が沢山いるだろうし、幼馴染の私なんか思い出す事もないのかな?でもあれから私も成長して胸だって大きくなったんだから、それに村の男子からも何度か告白だってされたんだよ。早くしないと誰かのものになっちゃうよ・・・ヤン・・・わたしとても不安だよ、わたしも日本で貴方と一緒にいたいよ・・・貴方のいない冬はとても寒いです。」
「シビリエンコ(ボキャブラリーなくてそれっぽい名前でてこなくて若干国間違ってそうな名前に・・・)君の事を忘れた事なんてひと時も無い、いつも君の事を思い起こしては自分を奮い立たせて頑張っている、はやく君にふさわしい男になって二里山村で日本式ラーメン屋を・・・いつか君と二人で・・・その夢は少しでも早く実現させるために待っていてくれ、必ず君を迎えにいくよ、必ずだ約束する。愛してるよロザンナ。」
とかやってて、あれか?そのうち金髪にしてみたり~のタバコや酒に手出したりしつつ~なんか若干メンヘラな地雷女と付き合ってみたりもしちゃうけど~・・・やっぱり自分が心から愛してるのは故郷で自分を待つ幼馴染のあの娘なんだと気づかされるとかいうパターンか!
くぅ・・・くっそ!くっそくっそ!
お前ってやつは・・・ほんとに・・・いつだって底抜けにドラマチック・チャイナだぜ!((o(-゛-;)
(初対面です。)
「じゃ・・・じゃ~・・・このミニキムチチャーシュー丼を。」
「アイッ!」
「・・・・・・・。」さすがにもう無いだろうと思うのだが、孫君は何かを言おうとモジモジしてる。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・?」
「アッ!イマナラ半ライスガムリョーデ!」
そんな食えねーよっ!
お前は田舎のばあちゃんかと突っ込みたくもなるが、さすがに半ライスは辞退しましたよ。
いあ~・・・ね、まぁ、そう!
がんばれ!孫君!!!
じゃ、またね~ヽ(゚◇゚ )ノ