今年の目標の一つに、父に眼科検診をさせることだった。

五、六年前から目がかすむようになって、ずっと原因が分からなかった。
この前、本人を眼科に連れて行くのがやっと叶い、白内障だと診断された。
 
紹介状をもらい、次は手術へ取り組むことだ。
父が住む近所でも有名らしい所に行った。
小さい眼科だが、玄関の下駄箱まで人が溢れていた。
 
色々検査をして、医師いわく、
目のかすみ具合は軽度なのに、あまり見えていない。
父は脳梗塞を何度も起こしているから、
視神経が萎縮して、その影響もあるだろう。
 
白内障の手術は人口レンズを角膜の中に入れる手術。
どこまで見えるようになりたいか問診と検査がある。
車の運転するかしないか。
眼鏡のない生活に憧れるかどうか。
希望によって、眼内レンズの種類や度数が変わってくる。
 
父の場合、視神経の萎縮が進行しているようなので、
視神経自体、正常には戻らない。
それをふまえて、医師に
視力1.2まで見えるレンズを入れたとしても、
完全に視力が回復しないことを了承して欲しいと言われた。
 
父は自宅でも段差のない所で転倒しているので、
目のかすみが取れて、またモノが見える程度で良い。
自宅で転んで、血を流すことが防ぐことができれば、それで十分だと思った。
次に、手術への段取りを決めるのに、説明を受けた。
有名な所だから、三か月先まではすでに予約でいっぱい。
手術費の個人負担が減ることもあり、
父が70歳になって、来年のお正月明けに決まった。
 
手術後は合併症を防ぐため、生活に色々制約があることも聞かされた。
「禁酒禁煙を三週間は守ってもらいますね」
という言葉に反応した父。
 
毎日朝からお酒とたばこでスタートする父なので、
三週間も禁欲生活が待っているなんて考えられない。
 
医師の前で
「それなら手術はやめだ」と言い出した。
お酒のことは家族で説得するからと
付き添いの夫が言おうとした時、医師に止められた。
 
お説教が始まったのだ。
「あなたの目だけど、みんなに迷惑かけてるのよ!」
「わがまま言ってるの分かってる?」
「たったの三週間なんだから、それ位努力しなさいよ!」
「脳梗塞の原因を作ったのはあなたのお酒の飲み過ぎでしょ!」
「ただでさえ、頭がとろけているんだから、これ以上とろけさせてどうするの?」
 
女医師のキツイ叱責(しっせき)に父はなんの反論も出来ず、
だんだん小さく縮こまってしまった。
 
 
病院を出た後、
「ストレートでお酒を飲んでやる」と意気込む父だった。
まだ何回もここに来るから、
ノンアルコールで体を慣らして、
また先生に叱ってもらいましょうね。