最初に父に異変があると気付いたのは2016年の7月だった。
 
その頃、私は一人暮らしだった。

週末に久しぶりに父を訪ねたら、

ボロボロになった肌着からあばら骨が透けて、

父はガリガリに痩せていた。

 

父は私の顔を見るなり

「冷蔵庫空っぽだよ」と訴えてきた。 

 

父は酒飲みだが、料理するのも好きだ。

だから、冷蔵庫はいつも色々な食材があり、 父が作った料理もあった。

 

いつも父を訪ねると、歩いて一緒に近くのスーパーに買い物に行く。

買い物するお金を「ろうきん」のATMから下ろすのだが、

大事な年金が振り込まれる父の「ろうきん」の通帳を見ると、

残金はわずか。

 

父の使い方では尋常ではない減り方だった。 

 

次に父は「京葉銀行」の通帳もカードがないと騒ぎ出した。 

この京葉銀行の口座には亡くなった母が生前、

父の名義で購入した一軒家の家賃収入がある。

 

この年の春頃にはローン返済が終わり、

家賃が収入に代わるから、父も喜んでいたのを覚えている。

 

「500万円溜まるまで絶対手付けない」と意気込んでいたのに、

それを記録する通帳もキャッシュカードもない。

 

私はやっと父を取り巻く環境の異変に気付いた。 

 

父はあまり外出しない。

目が不自由だということもあるけれど、知人が訪ねてくることのほうが多い。

 

母の死後、父は飲み歩いて、

親しくなったハルピン出身のえいかさんと親しくなったのだが、

そのえいかさんにお金を巻き上げられていたのはうすうすと分かっていた。

 

それでも父は「幸せだ」と私に言ったことがあったから、私は黙っていた。 

 

しかし、久しぶりに見た父の姿はとても酷かった。

 

このままでは、母の形見でもある一軒家の不動産まであの人に取られてしまう。

 

父を「守らねば」と思い、

生前相続で不動産の名義変更をし、

父の年金の管理をするようになった。

 

危機感によって、私がやっと行動に移した第一歩だった。