我らがホンダツアーズを率いるホンダ社長は、年齢的に長嶋・王世代なのだが、不思議なくらい野球を知らない。
一度だけご招待を受けてハワイ大学のスタジアムへ、UH Rainbowsの試合をホンダ社長と共に観戦した時のこと。彼にとって人生初の体験であり、僕達はまだその事実を知らなかった。

1回の表、一番打者が1塁ゴロに倒れた。その時である。

社長 「ねえ児島、今打った人はどうして球が転がった方向にわざわざ走って行ったの?逆の方(つまり3塁)にも同じ白い箱(つまりベース)があるのに。頭良くないね、あの人。」

児島GM 「いやだな、ホンダ社長。打ったら一塁に走るのがルールじゃないですか。もしかして御存知ないんですか?」

社長 「あぁそうね。そういう考え方があったわね。」

傍らにいた誰しもが思わず目を合わせてしまった瞬間だった。
ご招待という立場だったのに、2回が始まろうとした時点で席を立ってしまったホンダ社長にシンパシーを覚えつつも、内心失礼な大物オヤジだと思った夜だった。

何日か後、ある日のマネージャー会議。なんだか不機嫌な顔つきのホンダ社長がいた。どうやら経理上に問題を見つたとかで鼻息が荒いらしい。

社長 「先月の経費の中にある”ユニフォーム作成代”とか”野球関連備品”って何?!」

児島GM 「業界で開催されてる野球大会に我が社も参加する旨は既にお伝えした通りです。ユニフォームなどは会社持ちということで、社長からも決済いただきましたが?」

社長 「そうなの?じゃ、改めて聞くけど、そんなの楽しいの?」

児島GM 「会社のメンツもかかってますからね。真剣勝負です。」

社長 「なるほど。で、うちは何て名前なの?」

児島GM 「とりあえず皆さんも通常の社名で参加されてますからねぇ。我々も普通に”ホンダツアーズ”です。」

社長 「甘いわね。こういうのは名前が大切なのよ。強そうな名前で向かっていかなくてどうするの!!」

なんだか最初は無駄遣いと怒っていたところから、随分話が変わってきたなと他のマネージャー達もニヤニヤしながら聞いている。

社長 「ホンダ巨人がいいじゃない?」

児島GM 「はっ?ホンダジャイアンツじゃなくてですか?」

社長 「だめだめ!日本で一番強いのは巨人でしょうが!ジャイなんとかじゃないのよ。」

かなり自慢げである。もしかしたら前回の野球観戦のあと、少しばかりお勉強をされたのかもしれない。
と、突然…

ハリー 「ホンダ巨根っていうのはどうでしょう?」

オペレーションのスーパーバイザーのハリーは、日頃から社長と余り折り合いが良くない。児島GMに睨まれながらも、面白そうに茶化し始めた。

社長 「ハリー、いい事言うじゃない!それそれ!」

ハリー 「ホンダ巨乳というのもありますよ(笑)」

社長 「そうそう、その調子!!」

会議室の一同、笑うに笑えないこの状況に、肩を震わせ腹筋がよじれそうになりながらも必死に耐えていた。書記の社長秘書も、タイプの手を止め、困惑した面持ちで社長を見ていた。

結局この不毛な会議から結論(チーム名)を導き出すような愚かなことはせず、社長には内緒で普通に会社名でリーグ戦参加となった。また、ハリーは罰として、暫くの間キャッチャーという不人気なポジションを仰せつかった。

その後、いかなる会議においても、野球の話は御法度になったのは言うまでもない。