美優「秀にい、あのね、これ……」

美優が、テーブルの上に、一万円札を置いた。

末吉「うん?生活費、足りないのか?」

美優「そうじゃないの。裕太の机の中にあったの。あと、お菓子とか、ゲーム機とか……隠してる。
時々、帰りが遅いこともあるし……」


末吉「何~!😡
  裕太、起こしてこいよ!」

美優「きっと、訳があるのよ。
怒らないで、聞いてあげてよ。」

末吉「わかってるよ。
  おい!裕太、起きろ!」

裕太「何だよ。眠いのに……」

末吉「ここ、座れ!」

裕太「……」

末吉「このお金は何だ?」

裕太「知らない……」

末吉「机の中にある、お菓子や
ゲーム機とかは?」

裕太「……友達に、借りた……」

末吉「お前、ウソ言ってんじゃねえぞ!」

裕太「……」

末吉「盗んだのか?
  万引きしたのか?」

裕太「……違う……」

末吉「じゃあ、何だよ!
いつから、兄ちゃんに嘘つくようになったんだ?」

裕太「……だって……」

裕太は、泣き出した……

美優「ちょっと、秀にい……」

末吉「泣くな!
ちゃんと本当のことを話せ。」

美優「裕太……言って。」

裕太「かあ……ちゃんが……」

末吉「……え?」

裕太「母ちゃんが、好きな物を買えって、くれたんだ……」

末吉「いつ、何処で会ったんだ?」

裕太「俺が、学校から帰ったら、
アパートの家の前に立ってたんだ。
誰?って言ったら……
裕太?母ちゃんだよって……
それから、時々、会ってたんだ。
でも、兄ちゃんたちには、絶対に言うなって、言われて……
俺も、母ちゃんに会うのがうれしくて……」

美優「裕太……」

末吉「ばか!俺たちを捨てた奴だぞ!絶対にゆるせねえ。」

美優「近くにいるの?」

裕太「家は、知らない。
時々、アパートの前や、学校の帰り道で待ってるんだ。」

末吉「あいつ……
今度は、いつ会うんだ?」

裕太「わかんない……
連絡先しらないし……」

末吉「……わかった。
いいか、今度、会ったら、
兄ちゃんが話があると言ってくれ。
兄ちゃんの📱番号、教えていいから。」

裕太「うん……わかった。
ごめん……兄ちゃん。」

末吉「お前のせいじゃない……
もう、寝ろ……」

裕太「うん……」



美優「母さん……か。」

末吉「お前も、会いたいか?」

美優「わかんないよ。
 顔も、忘れたし……」

末吉「裕太の様子、見ててくれ。 
この金は、俺が、預かる。
あいつに返す。」

美優「うん……」

美優の不安そうな表情に、
また、家族があいつの為に、
掻き回される予感がした……


🏡🌿🌿🌿

それから、数日後……

📱💥

末吉📱「……美優?どうした?」

美優📱「お母さん、見つけた……」

末吉📱「……どこだ?」

美優📱「Mスーパー……」

末吉📱「今、行く……見ててくれ。
いいか、俺行くまで、絶対に声をかけんなよ!」

美優📱「わかった……」

末吉「くそ! あの女……
   何、考えてんだ。」

俺は、現場を抜けて、車ですぐに駆けつけた。

末吉📱「美優、着いたぞ。
     何処にいる?」

美優📱「2階の女子トイレの前。」

末吉📱「すぐに行く。」
 

女子トイレの前の柱の陰に、美優はいた。

末吉「中か?」

美優「……違ってたら、ごめん。
前の母さんとは、違うから……」

末吉「違う……?」

しばらくすると、ごみ袋と掃除用具を持った、おばちゃんが出てきた。

美優「あの人……」 

末吉「……え……」

言葉を失った……

前の母とは、似てもにつかない……

赤いマニキュアをつけていた手には、
ゴム手袋……
厚化粧だったのに、化粧もせず、
髪はボサボサで、少し白髪もある。

派手な服を着てたのが、今は、
作業服……

別人のようだった……

俺は、前に立って、聞いた……

末吉「末吉 さとみさんですよね?」

「……違います……」

末吉「嘘つくなよ!」

「ごめん、秀太……
  今、仕事中だから……」

末吉「何時に終わる?」

「ここ、終わったら、別の仕事もあるから……」

末吉「何時でも、待ってる。
今日中に必ず、アパートに来い。
逃げんなよ……美優、行くぞ。」




美優「母さん……かな?」

末吉「ああ、そうだ……
 アイツだ……まちがいない。」

美優「前の母さんとは違う……
きっと、色々とあったんだよ。
あんまり、怒らないでね。」

末吉「お前は、それで、いいのか?」

美優「秀にいが、私たちを育てるのに、学校辞めて、苦労したのはわかる。でも、母さんは母さんだよ。
私は……許せるよ…許したい。」

末吉「美優……」

🌃✨🏡 10時を過ぎた……

末吉「あいつ、来ねえな……
    裕太、もう寝ろ。」

裕太「うん……」

末吉「美優も受験勉強、あるんだろ?」

美優「今日は、いい……」

末吉「……来ると思うか?」

美優「きっと、私たちに会いたくて、戻ってきたんだよ。
   きっと来る。」

11時近くになった🌃✨

末吉「美優、朝、大変になるぞ。
もう、寝ろ。」

美優「うん……」

美優は母親代わりに、早く起きて、
文句も言わず、家事をしてくれていた。

末吉「ちょっと、外、出てくるわ。」

美優「うん……先に寝てるね。」

アパートの前には、小さい公園があった。
古びたブランコに乗り、
 俺は、タバコに火をつけた……


ブランコに乗ると、幼い自分を乗せ、
赤いマニキュアの母ちゃんが、ブランコを押してる思い出がよみがえる……

「ほ~ら、秀太、頑張れ~
すご~い、すごいな~」

長い髪の毛先をカールさせて、
赤い口紅と、甘い香りの
綺麗な母ちゃんだった……

ほんとに、あいつだったのか?
見間違いじゃ、なかったのか?

実際、会うのは恐かったが……
もう一度、確かめたかった……

❇🌃✨


「秀太……遅くなって……」

母が立っていた。
無造作に髪をひとつに束ね、
地味なシャツとズボンを着ていた……

末吉「おせーよ!
あいつら、もう寝たよ。」

母「秀太……今まで、ごめん!
裕太に聞いたよ。ばあちゃんが
亡くなったこと……
あんたが、高校辞めて、
あの子達を育ててくれたこと……」

末吉「今も、男と住んでんのか?」

母「一人だよ……母ちゃん、お前達の所に帰りたくて、必死に働いてお金貯めてたんだ。でも、別れた男が帰ってきて、殴られて……
お金、全部とられて、逃げられた。
あいつは、このアパートは知らないし、お前たちに会いたくなって、
この町に、帰ってきたんだ。」

末吉「嘘……じゃないよな?」

母「ほんとだよ。信じてもらえないかもしれないけど……
許してもらえないかも、知れないけど……
あんた達に、会いたかったよ。
今までのこと、謝るよ……」

末吉「……家は?
  何処に住んでるんだ?」

母「スーパーの近くの鈴木アパートだよ。」

末吉「……そうか。」
 
母「ねえ、秀太……
一緒に暮らしたいとか、今更そんな
図々しいことは、言わない……
せめて、時々でいいから、会いたいんだよ。お前や、あの子達に……
いいだろ?」

末吉「考えとくわ…これ、返すよ。」

ポケットから一万円を出し、母に渡した。

末吉「裕太に勝手に金を
渡さないでくれ。迷惑だから。
わかったな……」

母「うん、ごめんよ……」

末吉「俺の📱番号、教えておくよ。
とりあえず、何かあったら、連絡くれ。」

番号を書いていた、メモを渡した。

母「ありがと……
私は、携帯持ってないから、
清掃会社の電話を教えておく。」

末吉「うん……じゃあな。」

母「秀太……ほんとに、ごめん。
あんた達を、ほったらかしにして……」

末吉「あいつらに、土下座して、
謝れよ……俺は、いいから。
とりあえず、俺が、連絡するまであいつらとは、会わないでくれ。」

母「うん、わかった……」

末吉「……気を付けて帰れよ。」

母「うん……」

俺は、母に背を向けて、アパートに戻った。

さっきまでの、母に対する憎しみが、
憐れみに変わっていた……

それだけ、母は、別人のように変わり、疲れた顔をしていた……

美優「母さん、いた?」

末吉「まだ、起きてたのか?
公園で会ったよ……
悪かったって…会いたかった、ってさ……」

美優「許して、一緒に暮らそう。
裕太も、母さんが恋しいはずだよ。」

末吉「少し、考えるわ……寝ろ。」



🌃✨❇❇

なかなか、寝つけないでいた……

📱💥

末吉「何だよ……こんな、夜中に。」

末吉📱「……はい。」

「末吉 さとみさんは、ご存じですか?」

末吉📱「はい……?」

「倒れて、與病院に運びました。
あなたの📱番号がバックにあったので……来れますか?」

末吉📱「はい、すぐに行きます。」

美優「兄ちゃん、何……?」

末吉「母ちゃん、倒れて、
     病院に……」

美優「え!すぐに行かなきゃ。」

末吉「お前は裕太を見ててくれ。
   俺、行くから……」

美優「兄ちゃん、大丈夫だよね?」

末吉「当たり前だ。
   あとで、連絡する……」

着替えて、車のキーを持ち、
アパートを出た。

末吉「何だよ……さっき、会ったばかりじゃねえか。なに倒れてんだよ……
ちゃんと、あいつらに、謝るまで、死ぬんじゃねえぞ!」

與病院……裕太が具合悪くて、前に来たな……

🏥

末吉「すみません!
 末吉 さとみの家族のものです。
さっき、この病院に運ばれたとか。」

「あ、末吉さんですね。
処置が終って、病室にいます。
五階の502号室です。」

末吉「有り難うございます。」

エレベーターに乗り、病室に向かった。

502号室……ここだな……

扉を開けると、あいつがベッドに寝ていた……

あれ?この先生は、小児科の……

與「当直の與です。
今、眠っています。
歩道に倒れていたのを、通行人が、
通報してくれました。
血液検査の結果待ちですが、
血圧が低く、疲労もあったようです。まずは、このまま入院して、
様子を見ましょう。」

末吉「……有り難うございます。」

薄暗い病室の中で、
点滴をしている、青白い母の顔が、
昔とは、別人のようだった……

「ばか野郎……無理して、心配かけやがって……」

俺は、か細く冷たい母の手を、
両手で暖めた……