「ただいま……」
「実彩子なの?
ごはんは~?」
リビングから、母の声が聞こえた。
実彩「食べてきた~」
玄関から、まっすぐに、
2階の自分の部屋に向かった。
まだ、胸がドキドキしていた……
……顔も熱い……
今、起きたことが、信じられなかった……
私が、最初に、泣いている西島さんの肩を抱きしめたのが、いけなかったんだ……
……ごめん、忘れて……と
彼は、言ってた……
テーブルの上の、和也の写真……
ごめんね……和也……
そっと、テーブルに和也の写真を伏せて、ベッドに倒れこんだ……
触れた、彼の唇の感触……
そばで感じた彼の体温……
吐息……
実彩子、これはただの夢よ……
忘れるの……
私が愛してるのは、和也だけ……
和也だけだよ……ね?
🌃✨✨✨✨✨
2Kのアパート……
真っ暗な部屋に入り、
ベランダのカーテンを開けた……
月明かりに照らされた、
テーブルとソファーだけの、がらんとした部屋……
ソファーに座り……
目をつぶった……
実彩子さんを、思わず、抱きしめて
キス……してしまった……
和也、ごめん……
お前が悪いんだぞ……
会うたび、実彩子さんの
可愛いとこ……好きなとこ……
俺に、話すから……
いつのまにか、俺は彼女を好きになって……どんな人か、想像してて……
初めて、お前の命日で墓参りの帰りに、偶然会ったとき……
想像通りで、びっくりしたよ……
でも、ダメだよな……
俺はお前とそっくりだけど……
俺は、お前のコピーじゃないし、
お前の代わりに……
好きになっちゃ、ダメだよな……
今日のことは、忘れないと……
🌃✨✨✨✨✨
直也「ゆーりちゃん♥」
風呂上がりの俺は、ゆりの布団にもぐりこむ……
ゆり「何?直くん……」
ゆりは、鏡台の前で、髪をとかしている。
直也「隆弘君とお母さん会えたし、
そろそろ、俺たちの👶赤ちゃん欲しいね♥」
ゆり「う~ん……
あと、1年くらいかな?
その頃になれば、母さんも落ち着くだろうし……」
直也「え~😞
俺の親も楽しみに待ってるよ。」
ゆり「ごめんね~
母さんの様子を見てくるね。」
なかなか、戻らないゆり……
もしかして……
ゆりは、自分の車の中で泣いていた。
結婚してから、何回も見たな……
いつも見て見ぬふりをしてきた……
いつも、明るく元気なゆり……
泣くときは、いつも誰にも見られずに泣いていた……
恐くて、理由は聞けなかった……
ゆり……俺は、お前の夫だぞ。
泣くなら、俺の胸で泣いてくれ。
俺が、全部受けとめてやるから……
あいつを思って泣いてるのか?
俺じゃ、ダメなのか……?
そのまま、声をかけずに部屋に戻り、自分の布団にもぐりこんだ……
ゆりが戻っても、俺は、寝たふりをしていた……
直也 (ゆり……愛してるよ。
たとえ、お前の心に、別の奴がいても……)
ゆりと初めてあったのは、市役所と、保育所の合コン💓👫🍺だった……
仕事一筋で、彼女のいない俺に、
同僚が、誘ってくれた。
予約していた鍋料理の店に行き、
同僚が、一番歳上の俺に気を使い、真ん中に座らせてもらった。
あとから来た、保育所の女子の中に、ゆりがいて、俺の向かいに座った……
大きな目で、ニコニコして可愛くて、
元気一杯で……
皿に取り分けてくれたり、足りない🍺ビールを頼んでくれたり……
自然と気遣いができる子で……
カラオケでも、結構、歌がうまくて、俺とデュエットしたりして、
皆に「お似合い」と、冷やかされた。
直也「ゆりさん、好きです!
俺と付き合ってください。」
俺は、その日のうちに、ゆりに告白した。
同僚も、ゆりを狙っていたのがわかり、誰にも、渡したくないと思った。
ゆり「え~どうしよう……」
直也「付き合ってる人いるの?」
ゆり「……いない……けど……」
直也「すぐ、返事しなくていいから、考えてて。」
ゆり「はい……」
ゆりの返事を待たずに、俺は、
映画や、食事、ドライブと毎週のように、誘った。
段々……二人の距離が縮まっていった。
付き合っていくうちに、ゆりの家庭の事情もわかってきた。
心臓の弱い母と、大学生の弟がいて、
父親は、高2の時に事故で亡くなり、
母の実家を頼って、この街に来た。
彼女一人で背負うには、重すぎただろうに……
持ち前の明るさで、頑張ってきたのか、と思うと……
尚更、彼女を支えたいと思った。
俺の厳格な父と、お嬢様育ちの母は、この結婚には、反対だったが、
俺は何とか説得し、紹介して会わせたゆりのことも、気に入ってもらえた。
いずれは、家に入るという条件で、
最初は、二人でマンションに住んでいたが、ゆりの弟の和也の突然の死で、お母さん一人にはできず、
一緒に暮らしていた。心臓は、落ち着いてはいるが、和也の死で、お母さんの精神は、壊れかかっていた。隆弘君との再会で、正気を取り戻してくれればいいが……
ゆり……
……初めてキスをした時も、プロポーズした時も、ゆりは俺のことを、愛していたのだろうか?
あいつを諦めるために、俺を選んだのではないだろうか?
クリスマスイブ……
プロポーズの返事がなくて、
もう一度、ゆりにプロポーズしようと、俺は、ゆりに連絡した……
浦田「ゆりちゃん?
クリスマスイブにご飯食べない?
ステーキのおいしい店があるんだ。」
ゆり「ごめん!直くん。
その日は、高校からの友達と
食事する約束なの……
なかなか会えなくて……
やっと、向こうから連絡きて、
会えることになったから……」
直也「そうか……
連絡ついて、良かったね。
いいよ、気にしないで。
でも、次の日は、俺と会ってね。」
ゆり「うん。わかった。」
クリスマスイブに会う人……
てっきり、女の子だと思った……
偶然、その日、ゆりを見かけた。
隣には……
何度か、市役所で見かけた、
W建設の日高……
ふたりは、クリスマスの飾りつけで綺麗な、レストランへ入って行った。
嬉しそうなゆり……
女の子と一緒ではなかった……
俺より、あいつを優先したのか?
もしかして……彼を愛してたのか?
時々、泣いているのは、
あいつを思ってなのか……?
なかなか、眠れない夜だった……
☀🏡
「課長、おはようございます。」
直也「……はよ。」
色々と考えすぎて、寝不足だわ……
「今日も、愛妻弁当ですね?
羨ましいな。」
直也「いいだろ~
お前も、早く結婚しろよ。」
「相手が、なかなかいなくて……」
直也「まあ、がんばれ。」
「浦田さん、近藤さんが呼んでましたよ。」
浦田「なんだろ?ちょっと行って来る。」
近藤のいる、4階に行くため、
俺は、エレベーターを待っていた。
一階から昇ってきたエレベーターの扉が開いた……
直也「……!」
W建設の日高が、乗っていた。
無言で、会釈し、エレベーターに乗った。
直也(一度、話した方がいいかな?
まさか、結婚した後も、付き合ってるわけは、ないと思うが……)
日高「ゆりと結婚した浦田さんですね?」
いきなり、アイツから話しかけてきた。
直也「あ、はい。
その際は、お祝いをいただいて、
有り難うございました。」
日高「ああ、いえ……
アイツとは、高校からのつきあいですから……あ、友達としてですよ。」
直也「あの……ちょっと話せますか?」
ちらっと、腕の時計を見て、
日高「少しでしたら……
30分後に、打ち合わせがあるんで。」
直也「あ、じゃあ5階で、珈琲でも……」
日高「はい。」
俺たちは、そのまま、5階のティールームに向かった。
☕ ☕
直也「すみません。
一度、あなたと話してみたかったんです。ゆりのことで……」
日高「ゆりのこと……?」
直也「率直に聞きます。
おなたは、結婚する前、
ゆりと付き合ってましたか?」
日高「……」
確かに、俺は、ゆりを好きだった……
他の奴には、渡したくなかった……
日高「いや、普通に友達でしたよ。
まあ、男と女ですから、周りからは付き合ってると、誤解されることもありましたが……
何ていうか……兄妹みたいな感じかな。空気みたいに、そばにいれば、安心するみたいな……」
直也「そう……ですか……
今でも、時々、会ってますか?」
日高「いや……あ~そういえば、
駅前のファミレスで、2年ぶりに偶然、会いましたよ。
幸せ太りか?とか、冗談言ってね。
お互い連れがいて、あまり話はできませんでしたけど……」
直也「そうですか……」
日高「もしかして……俺とゆりが、浮気してるとか、疑ってます?」
直也「いや、そんな……
ただ、気になることがあって……」
日高「気になること……?」
直也「あいつ……時々、誰にもわからないように、泣いてるんです。
理由がわからなくて……」
日高「……」
浦田「ゆりの辛いことを、俺は全部、受けとめて、力になりたい。
日高さん、何故……泣いてるのか、
教えてください……」
日高「……俺も、よくは知らない。
でも、あいつは、頑張りすぎるんです。自分がしっかりしなきゃ、って……それで、時々泣いて、発散してるのかも……
昔からなんです……
そういう時は、声かけずに、
黙って泣かせてました……
ゆりの気が済むまで……」
直也「そうですか……」
日高「ゆりは、幸せですね。
浦田さんみたいな、優しい人といっしょになれて……
これからも、よろしくお願いします。」
直也「日高さん……」
📱💥
直也「はい、あ……これから行くといってて。」
直也「日高さん、忙しいのに、
すみませんでした……」
日高「いえ、いえ。
いつでも、話しかけてください。
俺でよければ……じゃ……」
日高さんは、ひとあし先に、
建設課に向かった。
直也「ゆり、信じていいんだよな……
俺たち、一緒にいられて、幸せだよな……」
エレベーターに乗り、四階に向かった。
